スクラップブック

スクラップブックとは

スクラップブック（英：scrapbook）は、新聞や雑誌の記事、写真、その他様々な資料や思い出の品などを切り抜いて、あるいはそのまま台紙となる帳面に貼り付けて保存する記録媒体です。日本では「切り抜き帳」「貼り交ぜ帳」「貼り込み帳」などと呼ばれることもあります。

その用途は幅広く、単にニュース記事や資料を保存する事務的な目的だけでなく、写真やチケット、手紙など、個人の大切な思い出の品々をアルバムのようにまとめて保存したり、芸術家や研究者が創作活動のための素材を整理したりと、多岐にわたって活用されています。

日本で事務用品として市販されているものはA4サイズが一般的で、丈夫なクラフト紙が台紙として使われることが多いです。より大きなサイズのものや、後からページの順序を入れ替えたり、新しいページを追加したりできるファイル形式のものなども存在します。

歴史をたどる

スクラップブックという形で記録媒体が広く用いられるようになったのは、新聞や雑誌が普及した19世紀以降のことです。しかし、帳面に様々なものを貼り付けて保存するという習慣自体は、それより以前から見られます。

例えば15世紀のイギリスでは、個人の興味や関心に従って、料理のレシピや手紙の控え、気に入った引用句や詩などを「共通の備忘録（commonplace book）」として一冊の帳面に書き留めたり貼り付けたりすることが行われていました。

16世紀になると、友人や集会の主人に求めに応じてサインや気の利いた一文、イラストなどを記してもらう「友誼帳（Friendship album）」を作る習慣がヨーロッパ各地で広まりました。これは現代の卒業アルバムに近いもので、特にヨーロッパ旅行の記録として、訪れた土地の紋章や地方の芸術家の作品などを集めて貼り込むために使われることもありました。1570年以降には、ヴェネツィアの景色やカーニバルの衣装といったテーマを描いた、こうしたアルバム向けの版画も販売されるようになっています。

18世紀、1775年に出版されたジェイムズ・グレンジャーによるイギリス史の本には、巻末に個人的な記録のための余白ページが設けられていました。この余白に自分で版画を貼り足したり、挿絵を描き加えたり、あるいは追加の素材を製本し直して加えたりする行為は、「extra-illustrating」または「grangerizing」と呼ばれ、知られるようになりました。また、アメリカ独立宣言の起草者として知られるトーマス・ジェファーソンは、大統領職を退いた後、英語、フランス語、ギリシャ語、ラテン語の聖書からキリストの生涯に関する部分を切り抜き、スクラップブックのように貼り合わせて自分だけの聖書を作成したことが知られています。

19世紀には写真が広く普及し、ヴィクトリア朝のイギリスでは家族写真をまとめたアルバムが盛んに作られるようになりました。中には、これらのアルバムのページを雑誌の切り抜きや旅先での記念品などで装飾する人も現れました。興味深いことに、「スクラップ」という言葉は元々、台紙に貼られていない状態の写真を指しており、「スクラップブック」はそうした写真を収めるアルバムを意味する言葉として定着したと言われています。

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、英語圏では特に女性たちの間でスクラップブック作りが趣味として流行しました。『赤毛のアン』の作者であるL・M・モンゴメリもその一人です。彼女は自身が寄稿した作品やその書評を貼り込んだ仕事用のスクラップブックと、写真や様々な記念品を集めた個人的なスクラップブックの2種類を作成していました。後者は6冊が現存しており、絵葉書、雑誌の絵、布の端切れ、押し花、果ては猫やリスの毛といったユニークな素材も含まれているそうです。当時、「クロモ」（彩色石版画に由来する言葉）と呼ばれる、スクラップブックに貼ることを想定した美しい絵も売られていました。

また、『トム・ソーヤーの冒険』などで知られる作家マーク・トウェインも熱心なスクラップブック愛好家でした。彼は生涯にわたってスクラップブックを作り続けましたが、新聞記事や写真に糊を塗る作業を面倒に感じ、ページにあらかじめゴム糊が塗られていて、水で濡らすだけで素材を貼り付けられるスクラップブックを考案しました。この発明は1873年に特許を取得し、友人が製造・販売した結果、1877年には2万5000冊を売り上げる成功を収めました。これは、数々の発明を試みたトウェインにとって、実際に利益をもたらした唯一の発明であったと言われています。

日本では、幕末の文人である大槻磐渓が、1836年から約25年かけて『塵積成山（じんせきせいざん）』または『積塵成山』と題された12冊（現存11冊）のスクラップブックを作成しました。1冊あたり50ページほどの分量で、手紙、広告、図面、漢詩や和歌など、非常に多岐にわたる資料が収録されています。また、明治の文豪、森鷗外は、新聞に連載された自身の小説を丁寧に切り取り、良質な和紙に貼り付けて、二つ折りにした和本のような形に綴じて保存していました。

現代アメリカでは、1980年代にスクラップブック作りが新たな趣味として再び大きな広がりを見せました。そのきっかけとなったのは、ロンダ・アンダーソンとシェリル・ライトルが立ち上げた「クリエイティブ・メモリーズ」という会社です。この会社は、家族写真を様々な装飾素材で飾り付けたアルバム（スクラップブッキング）のノウハウと専用の商品を提供し、大きな成功を収めました。これに続いて数千もの同種の会社が設立され、巨大な市場が形成されました。この「スクラップブッキング」はアメリカ発祥のクラフト（手芸）として日本にも紹介され、現在も関連するハウツー本や専用の道具が販売されています。

情報整理術・知的活用術としての側面

情報がインターネットで容易に検索できる現代においても、あえて紙の新聞などを切り抜いてスクラップを作成することの知的効用を説く人もいます。

ジャーナリストの池上彰氏は、『週刊こどもニュース』などでの活動を通じて、紙の新聞でスクラップを作成する過程で、目的の記事の隣に予期せぬ記事を発見することがあり、そうした無関係に思える記事同士が結びつくことで思いがけない発想が生まれることがあると述べています。また、特にジャンルを定めずに切り抜いていく場合、後で溜まったスクラップを見返すことで、自分自身でも気づいていなかった思考パターンや興味・関心を発見する機会になると説いています。

教育学者の齋藤孝氏は、『声に出して読みたい日本語』などの著作で知られ、子供や学生の日本語能力向上を目指すトレーニングとしてスクラップブック作りを推奨しています。齋藤氏も、紙の新聞スクラップ作成は関心領域を広げることに繋がると考えています。齋藤氏が推奨する方法は、まず好きな記事を切り抜き、スクラップブックの左ページに貼ります。右ページには、その記事の要点と自分の感想やコメントをまとめ、それらを元に30秒間のプレゼンテーションを行うというものです。

一方で、スクラップブックには整理上の欠点も指摘されています。一度記事を台紙に貼ってしまうと剥がして分類し直すことが難しく、量が増えると物理的にかさばるため、どこに何があるのか分かりにくくなりがちです。社会人類学者の梅棹忠夫氏は、著書『知的生産の技術』（1969年）の中で、こうした欠点に気づき、せっかく始めたスクラップブックをすぐにやめてしまった自身の経験に触れています。梅棹氏は市販のスクラップブックについて「あれは永遠に初心者むきの材料としてうれているのかもしれない。だれでも、一、二冊ほどつくってみて、これはだめだと気がついて、やめてしまうのではないだろうか」と述べています。そして、梅棹氏はその後に考案したより効率的な整理方法として、A4サイズのハトロン紙の片面に、記事の大きさに依らず一つだけを貼り付け、これを項目別にオープンファイルにまとめていくという手法を紹介しました。前述の池上彰氏も、当初はスクラップブックを使っていたものの、やはり分類のし直しの不便さを感じ、ルーズリーフを使うようになり、さらにその後はそれを綴じずにクリップやクリアファイルでまとめる形式に移行したと言います。

しかし、これらの欠点を認めつつも、スクラップブックならではの価値を評価する意見もあります。作家の三國一朗氏は、スクラップブックをテーマにしたエッセイ集『鋏と糊』の中で、梅棹氏が指摘するような欠点は承知しつつも、スクラップブックにはファイル形式にはない「自分の主観や個性を投影させる」独特の喜びがあると述べています。「どこになにがあるのかわからなくなる」という問題に対しては、ノートに簡単な索引を作成することを推奨しています。

地域史の記録のために、図書館が継続的にスクラップブックを作成している例もあります。例えば、京都府の京丹後市立峰山図書館では1952年の開館以来、継続してスクラップブックを作成しています。また、福島県の郡山市中央図書館では、1990年頃から毎朝、約50のテーマに分けて新聞記事を収集・分類し、スクラップブックとして整理しています。

なお、インターネット上の記事や情報についても、これらをクリップしてスクラップブックのように保存・管理する様々なソフトウェアやサービスが存在します。かつてMac OSに付属していたデスクアクセサリ「スクラップブック」や、ウェブブラウザFirefoxの拡張機能「ScrapBook」、Windows向けの「紙copi」などがその例です。

コレクションとしてのスクラップブック

スクラップブックは、個人の「好き」を集めるためのツールとしても広く用いられます。特定の人物や関心事に関する新聞や雑誌の記事、写真を切り抜いてコレクションする目的で作られます。

例えば、音楽雑誌やアイドル雑誌から好きなミュージシャンやアイドルの記事、漫画雑誌や週刊誌のグラビア、アニメ雑誌や声優雑誌から好きなアニメ作品や声優の記事などを集めて貼り込むといった活用法があります。また、記事だけでなく、好きな車、バイク、鉄道車両、アニメキャラクター、あるいはミュージシャンやアイドルの写真そのものを切り抜いて、ビジュアルコレクションとして楽しむためにも利用されています。

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