蝋板

蝋板とは

蝋板とは、木製の板に蝋（ワックス）を塗って作られた筆記用具です。板の表面を蝋で覆い、尖った器具（スタイラス）で文字を書き、ヘラ状の道具で蝋を削って消すことで、何度でも繰り返し使用できます。しばしば二枚の蝋板を紐で綴じ合わせて二つ折りにして使われ、これは「ディプティク」と呼ばれました。

歴史

蝋板は古代から中世にかけて、非常に便利な筆記用具として広く使われていました。古代ローマ時代のキケロの手紙にも蝋板（「cerae」）に関する記述があり、ハドリアヌスの長城の遺跡からも実物が発見されています。中世のヨーロッパでは、複数の博物館で展示されています。

蝋板に文字を書く際は、スタイラスという尖った道具を用いました。文字を消すときは、スタイラスの反対側にあるヘラのようなもので蝋を削り落としました。このヘラは現代の消しゴムに相当します。文字をすべて消した状態の蝋板は「タブラ・ラーサ（tabula rasa）」と呼ばれ、これは「白紙の状態」や「先入観を捨てる」といった意味で使われる言葉の語源となりました。

蝋板は、学生や秘書がメモを取ったり、ビジネスで経理記録を付けたり、様々な目的で使用されました。また、原始的な速記にも用いられたことが知られています。

古代の使用例

現存する最古の蝋板は、紀元前14世紀のウルブルン難破船から発見されたものです。これは象牙の蝶番を使ったツゲ製の蝋板で、ホメロスが蝋板について言及していたことの妥当性を裏付ける証拠となりました。1979年にはアルバニアのデュロスで、2世紀の金貸しの墓から象牙製の蝋板が発見されています。

ギリシャでは、紀元前8世紀頃から革製の巻物と共に折りたたみ式の蝋板が使われ始めました。ギリシャ語で書字板を意味する「デルトス（deltos）」は、書字板の形状がギリシャ文字の「デルタ（Δ）」に似ていることから名付けられたという説や、セム語の「daltu」に由来するという説があります。メソポタミアやシリア、パレスチナでも紀元前1000年頃から書字板が使用されていたことが確認されています。アッシリアの支配者センナケリブの宮殿の彫刻には、巻物を持つ人物とディプティクを開いた人物が描かれており、ヒッタイト新王国時代のものとされる彫刻にも、独特な留め具の付いた二つ折りタブレットを持つ人物が描かれています。また、サルゴン2世の宮殿遺跡からも象牙の書字板が発見されています。複数の書字板を連結するためのヒンジシステムも存在していたと考えられています。

中世から現代までの使用

中世の修道士であるHériman of Tournaiは、蝋板に大量の文字を書き記したと記録しています。

16世紀には、オーストリアの病院が奉仕記録を蝋板本に記録しました。この本は10枚の木製板で構成され、左側には支払額、右側には受取額が記録されました。この右側部分は黒茶色の蝋で覆われ、記録後に消去されました。蝋の素材は蜜蝋をベースに植物油と炭素顔料を含んだもので、融点は約65℃でした。

蝋板は19世紀まで商業的な記録や一時的なメモの用途で使用され続けました。例えば、岩塩採掘局や魚市場などで使われた記録が残っています。

まとめ

蝋板は、古代から中世、そして近世に至るまで、多様な用途で使用された歴史的な筆記用具です。その利便性から、広く社会に浸透していました。蝋板の登場は、文字文化の発展に大きく貢献したと言えるでしょう。

参照

Galling, K., 1971. "Tafel, Buch und Blatt" in Near Eastern Studies in Honour of W. F. Albright (Baltimore), pp 207–23.

関連項目

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