スダッタ

スダッタ（須達多）は、古代インドのコーサラ国、その都シュラバスティー（舎衛城）に住んだ著名な富豪であり長者でした。彼はその広大な財力を活かし、多くの孤独な人々や貧しい人々に惜しみなく食料や物資を施したことから、「給孤独者（アナータピンディカ）」という尊称で広く知られるようになりました。この「給孤独」という呼び名こそが、彼の慈善深い人柄を端的に示しています。

スダッタの人生において、仏教への深い帰依は重要な転機となりました。彼はある時、遠くマガダ国へと赴き、そこにあった竹林精舎で釈迦仏の教えに触れる機会を得ました。釈迦仏の説法に深く感銘を受け、強い敬信の念を抱いた彼は、ぜひとも釈迦仏に故郷である舎衛城へお越しいただきたいと強く願うようになりました。

この願いを実現するため、彼は舎衛城に釈迦仏のための精舎を建立することを決意しました。広大で静かな土地を探し求めた結果、彼はコーサラ国の太子である祇陀（ジェータ）が所有する美しい林苑こそ、精舎建立にふさわしい場所だと見出しました。スダッタは早速、ジェータ太子のもとを訪れ、その土地を譲ってほしいと懇願しました。

しかし、ジェータ太子は冗談まじりにこう答えました。「もし、お前がその土地の表面をすべて金貨で敷き詰めることができるなら、譲ってやろう。」通常であれば到底不可能な要求ですが、スダッタの精舎建立への情熱と財力は並外れていました。彼は太子の言葉を真に受け、文字通り大量の金貨を持ち込み、広大な林苑の地面を金貨で埋め尽くし始めたのです。

この光景を目の当たりにしたジェータ太子は、スダッタの揺るぎない信仰心と実行力に心底驚愕しました。そして、これは単なる冗談では済まされない事業であると悟り、感動した太子は、土地そのものはスダッタに譲る代わりに、その地に生い茂る樹木を自ら寄付することを申し出ました。こうして、土地は給孤独者スダッタが金貨で購入し、樹木はジェータ太子が寄進するという形で、精舎建立の準備が整ったのです。

この特異な由来から、後にこの僧園は、土地を提供したジェータ太子と、精舎建立の主要な担い手であり土地の購入者である給孤独者スダッタの両者の名を冠して「祇樹給孤独園（ぎじゅぎっこどくおん）」と呼ばれるようになりました。そして、その園内に建てられた精舎が「祇樹給孤独園精舎」と称されるようになったのです。この精舎こそ、仏教史上非常に重要な場所となる、いわゆる「祇園精舎」に他なりません。

スダッタの信仰は彼自身の内に留まらず、その家族にも深く浸透していきました。彼の息子や娘たちといった子女は皆、熱心な仏教徒となりました。また、彼の妻である玉耶女（ごくやにょ）も、初めは必ずしも仏教に理解があったわけではなかったようですが、釈迦仏やその弟子たちの教えを受けることで、やがて仏教に帰依したと伝えられています。

晩年、スダッタが病に臥せった際には、釈迦仏の十大弟子として知られるアーナンダ（阿難）やシャーリープトラ（舎利弗）といった高弟たちが、彼の見舞いに訪れたといいます。これは、彼が仏教教団においてどれほど重要な存在であったかを示すエピソードでしょう。そして、彼の死後については、その功徳によって天界の一つである兜卒天（とそつてん）に生まれたと伝えられています。スダッタは、その篤い信仰心と類稀なる財力、そしてそれを惜しみなく仏法のために用いた慈善行為によって、仏教史にその名を深く刻んだ人物です。

もう一度検索