ステーションソング

ステーションソング（Station Song）とは、放送局が自局のイメージを確立し、リスナーや視聴者に親近感を持ってもらうことを目的に制作・使用するオリジナルの楽曲です。多くは局の放送開始・終了時や特定の時間に流され、放送局の「顔」としての役割を担ってきました。本項では、主に日本の民間放送におけるステーションソングの変遷と現状について詳述します。

日本の民間ラジオ放送が始まった当初から、放送開始や終了の合図として、音楽や音声によるインターバル・シグナルが用いられていました。これらは局の識別や番組の切り替えといった実用的な意味合いが強かったものの、中には局のために作曲されたオリジナル楽曲が使われる例もありました。しかし、これらは主にインストゥルメンタルであり、放送局の具体的なイメージやメッセージを歌い上げる「イメージソング」としての性格は薄いものでした。

歌詞付きのステーションソングが本格的に登場するのは、1960年代に入ってからです。その先駆けとされるのが、1961年にOBCラジオ大阪のために制作された「ラジオ大阪の歌（通称：OBCソング）」です。この曲は、作詞を野坂昭如、作曲をいずみたくという、当時著名な二人のクリエイターが手がけたことで知られています。続いて、同じコンビによって文化放送の「QRソング」も生まれ、放送局独自の歌を持つというスタイルが広まっていきました。これらの楽曲は、局の理念や聴取者への思いを歌詞に込めることで、より積極的に放送局のイメージアップを図るものとなりました。また、放送局の創立記念や特定の節目に制作された楽曲が、その後も継続して使用され、ステーションソングとして定着する例も見られるようになりました。

かつては、ラジオやテレビの放送開始・終了時にこれらのステーションソングが流されるのが一般的でした。しかし、現代では放送の24時間化が進み、深夜や早朝に放送が完全に休止される局が減少したため、ステーションソングを耳にする機会は以前に比べて少なくなっています。それでも、一部の局では特定の時間帯に流されたり、局のイベントやプロモーションで使用されたりするなど、形を変えてその存在感を示しています。

日本の放送局には、長い歴史の中で数多くのステーションソングが生まれました。例えば、ラ・テ兼営局である東北放送の「TBCの歌」や新潟放送の「新潟放送の歌」など、局名を冠した定番の曲が存在します。朝日放送（現：朝日放送ラジオ）の「きこうABC」は、現在も日曜深夜の放送終了時にオルゴールのメロディーが流される形で受け継がれています。中波ラジオ局では、文化放送の「QRソング」が長く親しまれた後、新しいサウンドに移行しつつも、記念年に合わせて旧来のメロディーが活用されることもあります。テレビ局においても、日本テレビの「日本テレビの歌」や、テレビ新潟の「手と手と手とTeNY」、テレビ西日本の「FANTASTIC VISION」など、様々な楽曲が局のイメージを彩ってきました。

ステーションソングという厳密な定義には当てはまらないものの、放送局のアイデンティティと深く結びついたオリジナルの楽曲も存在します。北海道放送ラジオで長年クロージングに使われた伊福部昭作曲の「ウポポ」や、毎日放送テレビで使用されるアルフレッド・リード作曲の「Music in the air!」のようなインストゥルメンタル曲は、歌詞がなくても強く印象に残ります。日本テレビが開局時に使用し、その後長年にわたり親しまれた深井史郎作曲の「鳩の休日」は、特定の映像とともに局を象徴するサウンドとして知られています。また、J-WAVEの「Across The View」やFM802の「The Switch Is On」のように、開局時から現在まで特定の時間帯に継続して使用されている楽曲も、リスナーにとって局の存在を感じさせる重要な要素となっています。

ステーションソングは、単なるBGMではなく、放送局の歴史や文化、そしてリスナーや視聴者との関係性を映し出す鏡とも言えます。局の理念やメッセージを歌に乗せて伝えることで、聴取者との間に特別な絆を築き、局への愛着を育む役割を果たしてきました。インターバル・シグナルや局名告知、ジングルといった、放送における他の音声要素と合わせて、ステーションソングは放送局のサウンドアイデンティティを構成する重要な要素の一つと言えるでしょう。

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