QRソング
文化放送のステーションソングは、正式名称を「QRの歌」といい、「QRソング」の通称で広く知られています。1961年に誕生したこの楽曲は、文化放送の歴史を彩る象徴的な存在として、長年にわたり多くのリスナーに親しまれてきました。
「QRソング」が生まれるきっかけは、1960年頃に遡ります。当時のプロデューサーであった金子貞男氏が、アメリカ・ロサンゼルスの人気ラジオ局KFWBのある番組がジングルや即興の歌で構成されている録音テープを聴き、その音楽的な構成に強い感銘を受けたことから、文化放送独自のステーションソング制作を企画しました。
作曲は、金子氏の友人で数々のCMソングを手がけていたいずみたく氏に依頼されました。いずみ氏の推薦により、作詞は野坂昭如氏、歌唱は当時絶大な人気を誇っていたザ・ピーナッツに決定。こうして、1961年6月6日に楽曲の録音が実施されました。この短いながらも印象的な楽曲は、日本民間放送連盟の第12回民放大会賞「CM部門」のラジオCM第1種（5秒以内）の部で優秀賞を受賞するなど、その完成度の高さが認められました。
誕生以来、「QRソング」は文化放送の様々な場面で活用されてきました。番組と番組の間を繋ぐステーションブレイク（SB）枠での使用はもちろん、天気予報や交通情報といった番組内のコーナーBGM、さらには電話保留音などにも用いられ、文字通り文化放送の「音」として定着していきました。
使用方法にも変遷が見られます。特に、1998年4月から2015年12月7日までの期間は、月曜早朝の放送開始時と日曜深夜の放送終了時におけるインターバル・シグナルとして使用されていました。この際には、ショートバージョン、インストゥルメンタル（アコースティック、ロック、オリジナル）、賛美歌風、フルバージョンなど、多彩なアレンジが存在しました。これらの多くは、かつてこの曲を歌った経験を持つ尾崎亜美氏が編曲を担当し、ユニット「Skr@tch」が歌唱するなど、関わりの深いアーティストが制作に携わっています。また、試験電波発射時にもインストゥルメンタルバージョンが流されていました。ちなみに、1998年3月頃までは、放送開始時にはチャイコフスキーの『白鳥の湖』、終了時にはドビュッシーの『月の光』が使用されていました。
天気予報と交通情報においては、1998年4月から2005年3月まで、それぞれインストゥルメンタルのアコースティックバージョンとロックバージョンがBGMとして使われていました。
「QRソング」の歌詞には、文化放送のアイデンティティが凝縮されています。局名である「文化放送」やコールサイン「JOQR」、その下2桁の「QR」が繰り返し登場するほか、AMラジオ時代の周波数や、文化放送が放送していた番組ジャンル（ラジオドラマ、ニュース、歌番組など）も盛り込まれています。
AM周波数に関する歌詞は、時代の変化に合わせて変更されました。1978年11月23日に国際的な取り決めにより周波数が1130kHzから1134kHzに変更されたのに伴い、歌詞の「1・1・3・0」は「1・1・3・4」に改められました。
番組ジャンルに触れるくだりでは、「ドラマ」という言葉が登場することから、ラジオドラマが盛んに制作・放送されていた時代の空気が反映されていることが分かります。一時期、ラジオドラマが減少した編成事情に合わせて、西村知美氏が歌唱したバージョンではこの部分が「ワイド番組」を指す「ワイド」に差し替えられたこともありました。しかし、その後にアニメ関連番組などでのラジオドラマが増加したため、歌詞は元の「ドラマ」に戻されています。また、西村バージョンでは、当時のステーションキャッチフレーズ「1134、イイザンス」に合わせた韻を踏む歌詞への変更も行われていました。
近年では、特定のキャンペーンキャッチフレーズを取り入れたバージョンも制作されています。2021年には開局70周年の「もっと過激に もっと優しく 文化放送」、2023年には「好きがつながる 文化放送」といったキャッチを歌詞に盛り込んだバージョンがジングルとして使用されています。
さらに、「文化放送」の部分を「文化包丁」と駄洒落に言い換えたユーモラスなバージョンも存在します（これは猫ひろし氏のギャグとしても知られています）。
作詞を担当した野坂昭如氏は、わずか5秒の楽曲に「文化放送」と「JOQR」を盛り込むという局からの要求に応える形でこの歌詞を完成させましたが、これが結果的に野坂氏がCMソングライターとしての活動から距離を置くきっかけになったというエピソードも残されています。
2015年12月7日、文化放送がワイドFMの本放送を開始したのと同時に、「QRソング」は長年担ってきたステーションソングやジングルとしての役割を終えました。これに代わるものとして、浅川真洋氏が作詞・作曲し、声優・歌手の山村響氏が歌唱する新しいステーションサウンドが制作・導入されました。
しかし、文化放送はこの楽曲を単なる過去の曲とはせず、局の「財産」として今後も大切に残していく方針を示しました。当時の三木明博社長は記者会見で、「QRソングはなくすつもりはない」と明言しています。
一時的にステーションソングとしての直接的な使用は休止されていましたが、2023年1月からは新たな形で復活を遂げました。本楽曲のサビ部分をアレンジした2つの新しいステーションサウンドが制作され、月曜早朝の放送開始時や日曜深夜の放送終了時などに再び使用されるようになっています。
また、記念企画としても活用されています。2016年には65周年記念として浅川真洋氏によるスペシャルリミックスが制作・披露されました。2021年には開局70周年記念の一環として、浅川氏が編曲、山村響氏が歌唱を担当する「開局70周年バージョン」が登場。このバージョンは、現行のステーションサウンドと並行してジングルとして使用され、天気予報や交通情報のBGMも新たに制作されました。時報音には、かつて使用されていたオルゴール調のアレンジバージョンが再び用いられています。
半世紀以上の歴史の中で、「QRソング」は多くのアーティストによって歌い継がれてきました（編曲者は別に存在する場合があります）。資料が限定的なため一部未確認の可能性もありますが、以下にその一部を挙げます。
このように、「QRソング」は単なる局のテーマ曲に留まらず、時代の流れや番組編成に合わせて形を変え、多くの人々に歌われ、親しまれてきた文化放送の生きた歴史そのものと言えるでしょう。
誕生の背景
「QRソング」が生まれるきっかけは、1960年頃に遡ります。当時のプロデューサーであった金子貞男氏が、アメリカ・ロサンゼルスの人気ラジオ局KFWBのある番組がジングルや即興の歌で構成されている録音テープを聴き、その音楽的な構成に強い感銘を受けたことから、文化放送独自のステーションソング制作を企画しました。
作曲は、金子氏の友人で数々のCMソングを手がけていたいずみたく氏に依頼されました。いずみ氏の推薦により、作詞は野坂昭如氏、歌唱は当時絶大な人気を誇っていたザ・ピーナッツに決定。こうして、1961年6月6日に楽曲の録音が実施されました。この短いながらも印象的な楽曲は、日本民間放送連盟の第12回民放大会賞「CM部門」のラジオCM第1種（5秒以内）の部で優秀賞を受賞するなど、その完成度の高さが認められました。
多様な使用と用途の変遷
誕生以来、「QRソング」は文化放送の様々な場面で活用されてきました。番組と番組の間を繋ぐステーションブレイク（SB）枠での使用はもちろん、天気予報や交通情報といった番組内のコーナーBGM、さらには電話保留音などにも用いられ、文字通り文化放送の「音」として定着していきました。
使用方法にも変遷が見られます。特に、1998年4月から2015年12月7日までの期間は、月曜早朝の放送開始時と日曜深夜の放送終了時におけるインターバル・シグナルとして使用されていました。この際には、ショートバージョン、インストゥルメンタル（アコースティック、ロック、オリジナル）、賛美歌風、フルバージョンなど、多彩なアレンジが存在しました。これらの多くは、かつてこの曲を歌った経験を持つ尾崎亜美氏が編曲を担当し、ユニット「Skr@tch」が歌唱するなど、関わりの深いアーティストが制作に携わっています。また、試験電波発射時にもインストゥルメンタルバージョンが流されていました。ちなみに、1998年3月頃までは、放送開始時にはチャイコフスキーの『白鳥の湖』、終了時にはドビュッシーの『月の光』が使用されていました。
天気予報と交通情報においては、1998年4月から2005年3月まで、それぞれインストゥルメンタルのアコースティックバージョンとロックバージョンがBGMとして使われていました。
歌詞に見る時代背景と多様なアレンジ
「QRソング」の歌詞には、文化放送のアイデンティティが凝縮されています。局名である「文化放送」やコールサイン「JOQR」、その下2桁の「QR」が繰り返し登場するほか、AMラジオ時代の周波数や、文化放送が放送していた番組ジャンル（ラジオドラマ、ニュース、歌番組など）も盛り込まれています。
AM周波数に関する歌詞は、時代の変化に合わせて変更されました。1978年11月23日に国際的な取り決めにより周波数が1130kHzから1134kHzに変更されたのに伴い、歌詞の「1・1・3・0」は「1・1・3・4」に改められました。
番組ジャンルに触れるくだりでは、「ドラマ」という言葉が登場することから、ラジオドラマが盛んに制作・放送されていた時代の空気が反映されていることが分かります。一時期、ラジオドラマが減少した編成事情に合わせて、西村知美氏が歌唱したバージョンではこの部分が「ワイド番組」を指す「ワイド」に差し替えられたこともありました。しかし、その後にアニメ関連番組などでのラジオドラマが増加したため、歌詞は元の「ドラマ」に戻されています。また、西村バージョンでは、当時のステーションキャッチフレーズ「1134、イイザンス」に合わせた韻を踏む歌詞への変更も行われていました。
近年では、特定のキャンペーンキャッチフレーズを取り入れたバージョンも制作されています。2021年には開局70周年の「もっと過激に もっと優しく 文化放送」、2023年には「好きがつながる 文化放送」といったキャッチを歌詞に盛り込んだバージョンがジングルとして使用されています。
さらに、「文化放送」の部分を「文化包丁」と駄洒落に言い換えたユーモラスなバージョンも存在します（これは猫ひろし氏のギャグとしても知られています）。
作詞を担当した野坂昭如氏は、わずか5秒の楽曲に「文化放送」と「JOQR」を盛り込むという局からの要求に応える形でこの歌詞を完成させましたが、これが結果的に野坂氏がCMソングライターとしての活動から距離を置くきっかけになったというエピソードも残されています。
役割の終焉と「財産」としての復活
2015年12月7日、文化放送がワイドFMの本放送を開始したのと同時に、「QRソング」は長年担ってきたステーションソングやジングルとしての役割を終えました。これに代わるものとして、浅川真洋氏が作詞・作曲し、声優・歌手の山村響氏が歌唱する新しいステーションサウンドが制作・導入されました。
しかし、文化放送はこの楽曲を単なる過去の曲とはせず、局の「財産」として今後も大切に残していく方針を示しました。当時の三木明博社長は記者会見で、「QRソングはなくすつもりはない」と明言しています。
一時的にステーションソングとしての直接的な使用は休止されていましたが、2023年1月からは新たな形で復活を遂げました。本楽曲のサビ部分をアレンジした2つの新しいステーションサウンドが制作され、月曜早朝の放送開始時や日曜深夜の放送終了時などに再び使用されるようになっています。
また、記念企画としても活用されています。2016年には65周年記念として浅川真洋氏によるスペシャルリミックスが制作・披露されました。2021年には開局70周年記念の一環として、浅川氏が編曲、山村響氏が歌唱を担当する「開局70周年バージョン」が登場。このバージョンは、現行のステーションサウンドと並行してジングルとして使用され、天気予報や交通情報のBGMも新たに制作されました。時報音には、かつて使用されていたオルゴール調のアレンジバージョンが再び用いられています。
歌唱したアーティストたち
半世紀以上の歴史の中で、「QRソング」は多くのアーティストによって歌い継がれてきました（編曲者は別に存在する場合があります）。資料が限定的なため一部未確認の可能性もありますが、以下にその一部を挙げます。
- - 1960年代: ザ・ピーナッツ（オリジナル）
- - 1970年代: キャンディーズ、シモンズ、尾崎亜美、いずみたくシンガーズ
- - 1980年代: 柏原芳恵、岩崎良美、由紀さおり・安田祥子、西村知美、本田美奈子、森下由実子、工藤静香
- - 1990年代: Skr@tch
- - 2000年代: 菊地まどか（浪曲編）、キンモクセイ、水樹奈々、岩田さゆり、INSPi、多数の声優・パーソナリティによる合唱、鷲崎健・浅野真澄、皆川純子・広橋涼、大島麻衣
- - 2010年代: バナナフリッターズ、嗣永桃子
- - 2020年代: 山村響（開局70周年バージョン、新ステーションサウンド）、阿佐ヶ谷姉妹
このように、「QRソング」は単なる局のテーマ曲に留まらず、時代の流れや番組編成に合わせて形を変え、多くの人々に歌われ、親しまれてきた文化放送の生きた歴史そのものと言えるでしょう。
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