深井史郎

深井史郎（ふかい しろう）は、1907年4月4日に秋田県で生まれ、1959年7月2日に52歳でこの世を去った、日本の作曲家です。

生い立ちと音楽との出会い

秋田県で医師の三男として生まれた深井は、幼少期から音楽に触れる機会がありました。秋田中学校時代には、音楽教師である石田直太郎から西洋音楽のレコードを聴かせてもらったことがきっかけで、ストラヴィンスキー、ラヴェル、ファリャといった作曲家たちに影響を受け、西洋音楽に深く関わるようになりました。

当初は理系大学への進学を志望していましたが、肺病を患ったため断念。その後、東京高等音楽学院（現在の国立音楽大学）と帝国音楽学校で音楽を学び始め、菅原明朗に師事しました。同門には、ラジオ体操で知られる服部正や、行進曲の作曲で知られる古関裕而らがいました。

作曲家としての活動

1933年、新交響楽団邦人作曲コンクールに『5つのパロディ』が入選しました。この曲は後に『パロディ的な四楽章』として改作され、彼の代表作となります。この作品は、1970年代に流行した多様式主義の先駆けとも言われています。1939年には、安部幸明らとともに『楽団プロメテ』を結成し、さらに1940年には、紀元2600年記念音楽として舞踏組曲『創造』を発表しました。

深井はクラシック音楽だけでなく、映画音楽や放送音楽の分野でも活躍しました。映画『雪女』で文部省芸術祭作曲奨励賞を、『鳳城の花嫁』でアジア映画祭音楽賞を受賞するなど、高い評価を得ました。また、日本テレビの放送開始・終了時に使われたアニメーション映像『鳩の休日』のBGMや、フジテレビ『FNNニュース』のオープニングテーマを作曲するなど、幅広い分野で才能を発揮しました。

多様な作品群

深井の作品は多岐にわたり、管弦楽曲、バレエ音楽、カンタータ、マンドリンオーケストラ曲、室内楽曲、電子音楽、歌曲、映画音楽、放送音楽、校歌など、数多くのジャンルに及びます。

代表的な管弦楽曲には、『パロディ的な四楽章』、『日本民謡による嬉遊曲』、『舞踏音楽「都会」「創造」』などがあります。映画音楽では、『大菩薩峠』や『残菊物語』など、数多くの作品を手がけました。また、多くの学校の校歌も作曲しています。

その他の活動とエピソード

深井は、優れた文筆家としても知られていました。彼は、自身のコンクール嫌いを公言し、「新聞社でやるのは、審査に信用がおけないし、オリムピツクなぞは、どうせナチスの宣伝に使はれるのだから嫌だ」と述べています。また、「他の作家の影響を受けることによつて自己を失ふことを怖れるものヽ如きは、個性の貧弱な、苟しくも芸術家たる資格のないものだと思つてゐる」という言葉も残しており、彼の芸術に対する強い信念がうかがえます。

音楽評論家の片山杜秀氏による分析では、深井の作品『ジャワの唄声』には、大東亜共栄圏の瓦解を予見するメッセージが込められていたとされています。深井の作品には、このような社会情勢や時代背景を反映したメッセージが込められているものが多いと考えられます。

深井史郎は、日本の音楽史において重要な役割を果たした作曲家の一人です。彼の残した作品は、現在でも多くの人々に愛され続けています。

作品リスト（一部）

管弦楽曲
パロディ的な四楽章（1936年）
日本民謡による嬉遊曲（1938年）
舞踏音楽「都会」「創造」（1940年）
交響組曲「大陸の歌」（1941年）
交響的映像「ジャワの唄声」（1942年）
バレエ音楽「秋の声」（1950年）
交響絵巻「東京」（1956年）

映画音楽
大尉の娘（1936年）
大菩薩峠（1936年）
残菊物語（1939年）
元禄忠臣蔵（1941-42年）
獄門島（1949年）
悪魔が来りて笛を吹く（1954年）
忠臣蔵 櫻花の巻・菊花の巻（1959年）

放送音楽
鳩の休日（日本テレビ放送網）
FNNニュース

校歌
新潟県立長岡高等学校
三重県立宇治山田高等学校
秋田市立日新小学校
横浜商科大学高等学校
徳島県立富岡西高等学校
埼玉大学教育学部附属中学校

晩年

深井は映画音楽の仕事で京都市に滞在中、狭心症により1959年7月2日に急逝しました。彼の作品は、没後もなお、多くの人々に愛され、演奏され続けています。特に『パロディ的な四楽章』は、その独創的な構成と音楽性が高く評価されています。

深井史郎は、日本の音楽史に大きな足跡を残した作曲家であり、彼の作品は後世に語り継がれることでしょう。

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