ストリート・ファイティング・マン

ストリート・ファイティング・マン：反戦と怒りのロックアンセム

ローリング・ストーンズの楽曲「ストリート・ファイティング・マン (Street Fighting Man)」は、1960年代後半の激動の時代を反映した、バンドを代表するプロテストソングの一つです。1968年発表のアルバム『ベガーズ・バンケット (Beggars Banquet)』に収録され、シングルとしても世界各国でリリースされました。

音の暴力：革新的なサウンド

この曲は、従来のストーンズサウンドとは一線を画す、ハードで荒々しいサウンドが特徴です。その秘密は、レコーディング手法にありました。エレキギターは一切使用せず、アコースティックギターをカセットプレーヤーで過負荷状態に再生することで、独特の歪みとパワーを生み出しています。ベースはキース・リチャーズが担当、ビル・ワイマンは不参加という異例の編成で、さらにインドの笛であるシャハナイをデイヴ・メイソンが奏でるなど、エキゾチックな要素も取り入れています。シンプルながらもパワフルで、時代を表す混沌とした雰囲気を巧みに表現しています。

制作秘話：相反する証言とタイトル変更

ミック・ジャガーとキース・リチャーズによる共作とされていますが、それぞれの証言には食い違いがあります。ジャガーは自身が多めの作曲に携わったと主張する一方、リチャーズは1966～67年頃にメロディーを作成したと主張しており、その創作過程は謎に包まれています。当初は「プリモ・グランデ」や「ディド・エブリバディ・ペイ・ゼア・デュース？」というタイトル案もありましたが、最終的に「ストリート・ファイティング・マン」に落ち着いた経緯も興味深いです。これは、ジャガーが書き下ろした歌詞と既存の音楽トラックを組み合わせることで生まれたタイトルです。ブライアン・ジョーンズによるシタールやタンブーラ、そしてデイヴ・メイソンのシャハナイがレコーディング後期に追加され、完成へと至りました。

歌詞：反戦と自問自答

歌詞は、ジャガーが1968年3月にロンドンのアメリカ大使館前で目撃したベトナム反戦デモ、そして5月にはパリで起こった五月危機に触発されて書かれたものです。社会変革への強い意志を表現しながらも、「貧乏な餓鬼に何が出来るんだ？ロックバンドで歌う以外に」という自嘲的なフレーズも含まれています。これは、ジャガーが自身の有名さが社会変革に直接的に影響しないという葛藤を感じていたことを反映していると考えられます。

騒動と評価：放送禁止と賛否両論

その反体制的な歌詞と、アメリカでのシングルリリースと前後して発生したシカゴでの暴動事件の影響もあり、「ストリート・ファイティング・マン」はアメリカのいくつかのラジオ局で放送禁止処分を受けました。しかし、ジャガーとリチャーズは放送禁止を皮肉交じりに受け止め、この曲は革命を煽動するものであり、その効果は限定的だと語っています。

アメリカでのシングルチャートは48位と振るいませんでしたが、ヨーロッパ各国ではトップ10入りを果たすなど、高い人気を獲得しました。イギリスではオリジナルリリースから3年後、シングルカットされ21位を記録しました。メンバー間でも評価は分かれています。リチャーズは気に入りの曲の一つとして挙げている一方で、ジャガーは時代を超越した魅力を感じない、と否定的な見解を示しており、賛否両論のある楽曲となっています。ミック・テイラーもこの曲を高く評価しているなど、時代を超えて様々な解釈がなされています。「ローリング・ストーンの選ぶオールタイム・グレイテスト・ソング500」では301位にランクインしています。

バージョン違いとコンサートパフォーマンス

アメリカで最初にリリースされたモノラルバージョンは、ステレオバージョンとボーカルやフェードアウトに違いがあります。モノラルバージョンは現在では入手困難です。ライブでは、1969年のハイドパーク・フリーコンサートで初披露されて以来、ストーンズのツアーで定番として演奏され続けており、そのほとんどでエレキギターが使用されています。例外的にアコースティックギターで演奏されたライブ音源も存在します。数々のライブアルバムにも収録されており、その人気はライブパフォーマンスからも伺えます。

カバーとレガシー

数多くのアーティストによってカバーされており、その影響力の大きさを示しています。スウィング・ウエスト、ロッド・スチュワート、オアシス、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなど、様々なアーティストがそれぞれの解釈で「ストリート・ファイティング・マン」をカバーし、楽曲の普遍的な魅力を証明しています。

「ストリート・ファイティング・マン」は、時代を反映したメッセージ性の強い歌詞、そして革新的なサウンドによって、ローリング・ストーンズの歴史、そしてロック史に大きな足跡を残した楽曲と言えるでしょう。

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