ベガーズ・バンケット

ローリング・ストーンズ『ベガーズ・バンケット』：揺れ動く60年代とバンドの原点回帰

1968年、ローリング・ストーンズはオリジナル・アルバム『ベガーズ・バンケット』(Beggars Banquet)を発表しました。プロデューサーにはジミー・ミラー、レコーディング・エンジニアにはグリン・ジョンズとエディ・クレイマーが名を連ねています。このアルバムは、全英3位、全米5位というチャート成績を収め、商業的にも成功を収めました。

サイケデリックからブルース・フォークへの回帰

60年代後半、ストーンズは黒人音楽をルーツとするサウンドから、サイケデリック・ロックの影響を強く受けつつありました。ファンの間ではバンドの将来を案じる声も上がっており、不安定な時期でした。しかし、シングル「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の大ヒットを経て発表された『ベガーズ・バンケット』は、バンドの原点回帰を鮮やかに示す作品となりました。

ミック・ジャガーはバンドの方向性を転換させるため、スペンサー・デイヴィス・グループやトラフィックなどを手がけたジミー・ミラーをプロデューサーに迎え入れました。この強力なタッグは、後に『レット・イット・ブリード』、『スティッキー・フィンガーズ』、『メイン・ストリートのならず者』といった名盤を生み出す礎となります。

レコーディングはロンドンのオリンピック・スタジオを中心に、ロサンゼルスでの最終的なミックスダウンを経て、1968年7月5日に完了しました。当初はジャガーの誕生日である7月26日発売を目指していましたが、ジャケット問題により年末まで延期されています。

物議を醸したジャケット写真と発売延期

アルバムのタイトル『ベガーズ・バンケット』はジャガーが決定しましたが、そのアイデアはデザイナーのクリストファー・ギブスによるものでした。しかし、アルバムジャケットに採用された「汚れた便所の落書き」風の写真は、レーベルであるデッカ・レコードに「いかがわしい」として拒否されてしまいます。

バンドはこれに反発し、茶色の紙袋に「子供には不向き」というラベルを貼った代案を提示したり、音楽誌にジャケット写真の掲載とレーベルへの採用を訴える広告を出すなど、様々な手段を講じました。最終的には、シンプルなデザインのジャケットで発売せざるを得ませんでした。この「便所ジャケット」は、後に正式なジャケットとして採用されることになります。

音楽性：ブルース、フォーク、そしてロックンロール

アルバムの内容は、「悪魔を憐れむ歌」や「ストリート・ファイティング・マン」といった革新的な楽曲と、ブルース、カントリー、フォークを基調とした楽曲が混在しています。キース・リチャーズは、自身の著作で本作について「『悪魔を…』や『ストリート…』を除けばロックンロールとは言えない」と述べており、バンドの音楽性の多様性を示しています。リチャーズのオープンチューニング奏法も特徴的ですが、彼の代名詞であるオープンGチューニングはまだ使用されていませんでした。

ブライアン・ジョーンズの健康状態は悪化しており、本作への貢献度は前作よりも低かったと言われています。レコーディング期間中、ジョーンズは麻薬所持で逮捕され、バンド内では彼の解雇も検討されました。ジョーンズの様子は、ゴダール監督のドキュメンタリー映画『ワン・プラス・ワン』にも映し出されています。

プロモーションと『ロックンロール・サーカス』

アルバム発売後には、ジョン・レノン、エリック・クラプトン、ザ・フーなどをゲストに迎えた映画『ロックンロール・サーカス』が制作されました。しかし、版権の問題から長らく封印されており、1996年にようやく公開されました。

高い評価と様々なリイシュー

『ベガーズ・バンケット』は、チャート最高位こそ前作に及ばなかったものの、セールスは上回り、音楽評論家からも高く評価されました。メンバー自身もこのアルバムを高く評価しており、好きなアルバムとして挙げる発言も残されています。ローリングストーン誌のオールタイム・ベストアルバム500にも選出されています。

アルバムは1984年に初めてCD化され、その後も何度かリマスターされて再発されています。2018年には50周年記念エディションが発売され、最新のボブ・ラドウィックによるリマスター音源が収録されています。また、モノラルバージョンも存在し、ボックスセット等で復刻されています。

収録曲

アルバムには、「悪魔を憐れむ歌」「ストリート・ファイティング・マン」といった代表曲をはじめ、様々な楽曲が収録されています。これらの楽曲は、ストーンズの多様な音楽性を示すものとなっています。ブルース、フォーク、ロックンロールといった要素が融合し、バンドの幅広い音楽性を示す、まさに集大成と言える一枚です。

参加ミュージシャン

ローリング・ストーンズのメンバーに加え、ニッキー・ホプキンス、ロッキー・ディジョン、リック・グレッチ、デイブ・メイソンといったゲストミュージシャンも参加しています。彼らの演奏が、アルバムに深みを与えています。

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