ストロビロイド説

ストロビロイド説 (Strobiloid theory)

ストロビロイド説は、被子植物の花の起源と進化に関する理論です。この説によれば、雄蕊や雌蕊などが多数存在する複雑な両性花が、時間をかけて単純な形状の花へと退化していったとされています。ストロビロイド（Strobiloid）という言葉自体は、松ぼっくりのような球果または毬果を指し、仮説的に考えられた原始的な花の形式を示しています。このような花は、基部から頂部に向かって花被（がくや花弁）、雄蕊（小胞子葉）、雌蕊（大胞子葉）がらせん状に配置されています。

歴史的には、被子植物の花の進化に関して「単純な無花被の花から複雑な花へ」という考え方が一般的でした。この理論は、単純な花序が退化し苞葉が花被に変わることで、一般的な花に進化したとするもので、アドルフ・エングラー等の偽花説（Pseudanthial theory）が有名です。しかし、比較研究が進むにつれ、特にブナ科やヤナギ科のグループでは、退化を経て単純な花が成立したとする考えが支持されるようになり、1970年代からはストロビロイド説が有力視されるようになりました。このため、ストロビロイド説は、偽花説とは対照的な真花説（Euanthial theory）とも呼ばれています。

現在の植物においては、モクレン科、スイレン科、シキミ科などの花がストロビロイドに近いとされ、これらは比較的原始的な形態と考えられています。さらに、化石植物のキカデオイデアはストロビロイドに似た花を持っており、被子植物の祖先に近い可能性が指摘されています。最近の発見では、化石被子植物のアルカエフルクトゥスが花被・雄蕊・雌蕊からなる枝構造を持っており、この枝が縮小することでストロビロイドに繋がると考えられています。

1980年代には、数名の分類学者がストロビロイド説に基づいた新たな分類体系を提案しました。その中で特に有名なのは、アーサー・クロンキストが1981年に発表したクロンキスト体系で、この体系では双子葉植物の中で最も原始的なグループとしてモクレン目が位置づけられています。クロンキストは、コショウ目の単純な無花被花に関してもモクレン目に近いと考えました。

近年では、DNA配列に基づく系統解析の進展により、APG植物分類体系が整備され、モクレン目やスイレン科、シキミ科が原始的グループとして再確認されています。ストロビロイド説は大まかに見れば正しいとされているものの、原始的とされていた植物の進化の段階は多様であり、モクレン目が単子葉植物より先に分岐したことや、キンポウゲ目が後に分岐したことが明らかになっています。進化段階が進んだグループでは、クロンキストが考えた形態に基づく系統が必ずしも正しいわけではないことも示唆されています。また、アルカエフルクトゥスの花は花序として解釈されるべきとの見解もあり、これはむしろ偽花説的な立場になります。

このように、ストロビロイド説は被子植物の進化を理解する上で重要な視点を提供していますが、進化の過程に関する議論や異なる解釈が多数存在しています。

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