スピード・キング (ディープ・パープルの曲)

ディープ・パープル「スピード・キング」：ハードロックの金字塔

「スピード・キング」(Speed King)は、1970年に発表されたディープ・パープルのスタジオ・アルバム『ディープ・パープル・イン・ロック』の冒頭を飾る楽曲であり、ハードロックの歴史において重要な位置を占めています。リフを前面に押し出したそのスタイルは、後のスピードメタルやスラッシュメタルといったジャンルの形成に大きな影響を与えました。

誕生の背景と音楽的特徴

この曲は、リッチー・ブラックモアが敬愛するジミ・ヘンドリックスの楽曲「ファイア (Fire)」に着想を得て、1969年から1970年にかけて制作されました。当初は「Kneel & Pray」という仮タイトルで呼ばれており、アルバムリリース前からライブで演奏され、徐々に現在の形に磨き上げられていきました。

音楽雑誌『eclipsed』は、その冒頭部分について「ブラックモアはわずか50秒でビート時代の共通の慣習を破り、60年代ポップ・ミュージックの歴史を作った」と評しています。

「スピード・キング」は、特定の曲のカバーではありませんが、歌詞は様々なオールディーズナンバーからの引用で構成されています。「リップ・イット・アップ (Rip It Up)」、「グッド・ゴーリー・ミス・モーリー (Good Golly, Miss Molly)」、「トゥッティ・フルッティ (Tutti Frutti)」、「火の玉ロック (Great Balls of Fire)」、「The Battle of New Orleans」といった楽曲から歌詞の断片が取り入れられています。ボーカリストのイアン・ギランは、エルヴィス・プレスリー、リトル・リチャード、チャック・ベリーといったアーティストの楽曲からインスピレーションを得て歌詞を書き上げました。

スタイル、成功、そして遺産

この曲は、ハードロックというジャンル、そしてディープ・パープルというバンドそのものを象徴する楽曲として広く認識されています。イアン・ギランのルーツである1950年代のロックンロールと、当時隆盛しつつあったヘヴィ・ロックのスタイルが融合したサウンドは、ヴェルナー・ファルスティッヒによって「ハード対ソフトの対立」として分析されています。彼は、この曲のインストゥルメンタル導入部におけるギターとオルガンの対比こそが、1970年代のロック音楽全体を特徴づける要素であると指摘しました。

ディープ・パープルは、「ファイアボール (Fireball)」、「スペース・トラッキン (Space Truckin')」、「ミストゥリーテッド (Mistreated)」、「嵐の使者 (Stormbringer)」といった楽曲でも同様のリフのスタイルを踏襲しています。また、1983年にブラック・サバスがイアン・ギランをボーカルに迎えて発表した「トラッシュド (Trashed)」には、「スピード・キング」との類似性が見られます。さらに、1987年にディープ・パープルが発表したスタジオ・アルバム『ハウス・オブ・ブルー・ライト (The House of Blue Light)』のタイトルは、「スピード・キング」の歌詞の一節から取られています。

ライブ・アルバムへの収録

「スピード・キング」は数多くのライブ・アルバムに収録されています。初期の例としては、『Live in Montreux 69』（1969年演奏）、『Scandinavian Nights』（1970年演奏）などがあります。その後も、『In the Absence of Pink』（1985年演奏）、『ライヴ・紫の閃光 (Come Hell or High Water)』（1993年演奏）、『紫神転生〜ライブ・アット・ジ・オリンピア'96 (Live at The Olympia '96)』、『Live at Montreux 1996』（1996年演奏）、『トータル・アバンダン (Total Abandon: Australia '99)』（1999年演奏）、『The Soundboard Series』（2001年演奏）といったアルバムに収録されています。これらのライブ音源は、いずれもイアン・ギランがボーカリストを務めていた時期のものです。演奏時間は6〜7分程度のものから、10分を超えるものまで様々で、同じタイトルのライブ・アルバムでもバージョンによって演奏時間が異なる場合があります。

代表的なライブ・アルバムである『ライヴ・イン・ジャパン (Made in Japan)』（1972年）のオリジナルLP盤には「スピード・キング」は収録されていませんでしたが、その後の再編集盤には、1972年8月17日の大阪フェスティバルホール公演、および8月15日の日本武道館公演の音源が収録されています。

「スピード・キング」は、ディープ・パープルの音楽的革新性と、ハードロックの進化を象徴する重要な楽曲として、これからも多くの音楽ファンに愛され続けるでしょう。

もう一度検索