スペルトコムギ

スペルトコムギ（スペルト小麦）

スペルトコムギ（学名: Triticum spelta）は、約7000年前に栽培が始まった小麦の一種で、古代から中世にかけてヨーロッパの多くの地域で主食として重宝されてきました。近年では、中央ヨーロッパやスペイン北部に残る遺存種として知られ、健康志向の高まりと共に市場での関心が高まっています。

進化

スペルトコムギは、遺伝子解析により、4倍体のエンマー小麦（AABBゲノム）と近東に自生するタルホコムギ（DDゲノム）との交雑によって生まれたことが分かっています。約9000年前には中東地域での栽培が確認されており、進化の過程において、パンコムギ（AABBDDゲノム）との交雑も影響を与えたとされています。しかし、初期のスペルト小麦の発展がヨーロッパで特に遅れたことから、その起源がアジアとヨーロッパで異なるかどうかは依然として解明されていません。

歴史

ギリシャ神話では、スペルト小麦は女神デーメーテールから人々への贈り物とされ、紀元前5千年紀には南コーカサスや黒海北東岸でその痕跡が発見されています。中央ヨーロッパでは、後期新石器時代からスペルト小麦の栽培が行われ、青銅器時代を経て、広く普及しました。鉄器時代には、ドイツ南部やスイス、紀元前500年頃にはブリテン島でも一般的に栽培されていました。

古代ローマでは、スペルト小麦を使ったケーキを新郎新婦が分け合う習慣があり、炭水化物の豊富さから「進軍の穀物」と呼ばれることもありました。中世にはスイス、チロル地方、ドイツ、フランス北部、低地諸国南部で広く栽培され、9世紀には主要な穀物となっていました。

アメリカ合衆国には1890年代に導入されましたが、20世紀にはパンコムギの栽培に切り替える農家が多く、次第に忘れられていきました。しかし、20世紀末からは有機農業によって、少ない肥料で培養できる特徴が再評価され、21世紀初めから製パンやパスタ、フレーク作りにも用いられるようになりました。

栄養価

スペルト小麦は製パンに適したグルテンを含んでいますが、グルテン関連障害を持つ人々には不向きです。冬小麦と比較して、グリアジンやグルテニンの比率が高く、水溶性の基質タンパク質が豊富です。これらの特性は、製品の品質向上に寄与しています。

製品

ドイツやオーストリアでは、スーパーマーケットでスペルト小麦粉やパン（Dinkelbrot）が手に入ります。また、未熟なスペルト小麦は乾燥してグリュンケルンとして食されることもあります。オランダでは、スペルト小麦を原料とした蒸留酒イェネーフェルが製造されています。バイエルン州やベルギーでは、スペルト小麦からビールが作られることもあります。

スペルトコムギは、古代からの豊かな歴史と栄養価の高い特性を持つ穀物として、再び注目されている存在です。

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