スペースX CRS-10
スペースX CRS-10 (SpX-10)
スペースX CRS-10は、国際宇宙ステーション（ISS）への物資補給を目的とした、商業補給サービス（CRS）プログラムの一環として実施されたミッションです。この計画はNASAとの契約に基づき、スペースX社が担当しました。2017年2月に打ち上げられ、同年3月に完了しました。これは、スペースXにとってNASAの商業補給サービス契約における、当初発注分の12ミッションの一つでした。
打ち上げに向けた道のり
CRS-10ミッションは、当初2016年後半に予定されていましたが、スペースXの他のミッションにおける事故調査の影響で延期されました。特に、2016年9月に別の打ち上げで発生したロケットの爆発事故の調査が完了するまで、打ち上げは保留されました。その後、暫定的に2017年初頭に設定され、最終的に2017年2月18日を目標に準備が進められました。打ち上げに向けては、発射台での静的燃焼試験が2月12日に成功裏に行われました。
しかし、最初の打ち上げ試みは、打ち上げ時刻のわずか13秒前に自動的に中止されました。これは、ファルコン9ロケット第2段の推力偏向システムに技術的な問題が発生したためです。このため、打ち上げは24時間延期されることとなりました。スペースXのチームは、夜通しで故障した部品の修理を行い、ロケットを再び打ち上げ準備態勢に戻しました。
歴史的な発射台からの打ち上げ
改良作業を終えたファルコン9ロケットは、2017年2月19日14時39分（協定世界時、UTC）に、フロリダ州にあるケネディ宇宙センター第39発射施設パッドA（LC-39A）から無事打ち上げられました。この発射施設は、アポロ計画やスペースシャトル計画といった、アメリカ宇宙開発史における重要なミッションの打ち上げに使用されてきた歴史的な場所です。CRS-10の打ち上げは、スペースシャトル計画の最終フライト（STS-135）以来の有人・無人を含む打ち上げであり、また、1973年のスカイラブ打ち上げ以来となる、LC-39Aからの無人ミッションの打ち上げとなりました。
打ち上げ成功後、ファルコン9の第1段ロケットは、事前に設定された軌道制御噴射を経て、地上着陸地点（LZ-1）へ安全に帰還・着陸しました。これは、ファルコンロケットの第1段が地上に日中に着陸した初めての事例となりました。
ISSとのランデヴーと補給
打ち上げられたドラゴン宇宙船は、ISSへ向かう途中で予期せぬ事態に直面しました。2月22日に予定されていたISSとのランデヴー（接近・結合）の際、航法システムから不正なデータが報告されたため、機上コンピューターが接近を自動的に中止したのです。これはドラゴン宇宙船による初のランデヴー中止事例となりました。問題は、ISSとの相対位置を正確に把握するためのGPSデータに異常があったことが原因でした。このエラーを修正するため、ドラゴン宇宙船はISS周辺を周回する待機軌道へ移動し、約24時間後に再度の接近が試みられました。2度目の試みは成功し、ドラゴン宇宙船は2月23日10時44分（UTC）にISSのロボットアーム（カナダアーム2）によって捕捉され、数時間後の13時12分（UTC）にハーモニーモジュールへ係留されました。このランデヴー中止については、後にNASAの監査によって、NASAとスペースXの間におけるソフトウェア開発プロセスの違いが原因の一つであったことが指摘されました。
CRS-10ミッションでは、与圧貨物1,530 kgと非与圧貨物960 kgを合わせた、総計2,490 kgの物資がISSへ届けられました。与圧貨物には、科学調査用の機器やサンプル（ACME, LMM Biophysicsなどのペイロードを含む）、乗組員の生活用品、宇宙船の維持に必要なハードウェア、船外活動用の装備、コンピューター関連資材などが含まれていました。非与圧貨物としては、地球観測機器のSAGE IIIや、米国防総省の宇宙試験プログラムパッケージであるSTP-H5などが搭載されました。
帰還とミッション完了
ISSでの滞在期間を終えたドラゴン宇宙船は、2017年3月18日21時20分（UTC）にISSからロボットアームによって分離されました。その後、ISSの真下にあたる分離地点へ移動し、翌日3月19日09時11分（UTC）にアームから解放されました。ドラゴンはISSから安全に離れるための軌道制御を行った後、地球への帰還準備に入りました。14時00分（UTC）頃に最終的な軌道離脱噴射を行い、大気圏への再突入を経て、14時46分（UTC）にカリフォルニア州ロングビーチ沖約320 kmの太平洋上に無事着水しました。
帰還したドラゴン宇宙船は、ISSで実施された様々な研究のサンプルや、使用済みの科学・クルー関連機器、船外活動装備品など、合計1,652 kgの貨物を地球へ持ち帰りました。一方、ISSの外部に搭載されていた一部の実験装置（MISSEモジュールなど）を含む811 kgの外部貨物は、ドラゴンの非与圧トランク部分に積載され、再突入時にトランクごと燃え尽きる形で廃棄されました。
新しい飛行安全システムの実運用
CRS-10ミッションの打ち上げは、スペースXにとってだけでなく、アメリカの宇宙開発にとっても重要な意味を持つ出来事がありました。このミッションから、新しい「自律飛行安全システム（AFSS）」が初めて実運用されたのです。AFSSは、ロケットの飛行経路が安全範囲から逸脱した場合に、地上の管制官の操作を待たずに、搭載されたシステムが自動的に判断してロケットを停止させる技術です。これにより、公共の安全性が向上するだけでなく、地上のインフラへの依存度を下げ、遠隔地からの打ち上げコスト削減、スケジュールの予測性や運用上の柔軟性の向上といった多くの利点があります。AFSSはNASA、空軍、DARPAが共同開発したソフトウェアをベースに、スペースXが独自のソフトウェア層を追加したもので、CRS-10以前の13回のファルコン9ミッションで「シャドウモード」（実際の制御は行わずデータを取得するだけ）で試験されていました。CRS-10は、このシステムが初めてアクティブに使用されたミッションとなりました。
スペースX CRS-10は、国際宇宙ステーション（ISS）への物資補給を目的とした、商業補給サービス（CRS）プログラムの一環として実施されたミッションです。この計画はNASAとの契約に基づき、スペースX社が担当しました。2017年2月に打ち上げられ、同年3月に完了しました。これは、スペースXにとってNASAの商業補給サービス契約における、当初発注分の12ミッションの一つでした。
打ち上げに向けた道のり
CRS-10ミッションは、当初2016年後半に予定されていましたが、スペースXの他のミッションにおける事故調査の影響で延期されました。特に、2016年9月に別の打ち上げで発生したロケットの爆発事故の調査が完了するまで、打ち上げは保留されました。その後、暫定的に2017年初頭に設定され、最終的に2017年2月18日を目標に準備が進められました。打ち上げに向けては、発射台での静的燃焼試験が2月12日に成功裏に行われました。
しかし、最初の打ち上げ試みは、打ち上げ時刻のわずか13秒前に自動的に中止されました。これは、ファルコン9ロケット第2段の推力偏向システムに技術的な問題が発生したためです。このため、打ち上げは24時間延期されることとなりました。スペースXのチームは、夜通しで故障した部品の修理を行い、ロケットを再び打ち上げ準備態勢に戻しました。
歴史的な発射台からの打ち上げ
改良作業を終えたファルコン9ロケットは、2017年2月19日14時39分（協定世界時、UTC）に、フロリダ州にあるケネディ宇宙センター第39発射施設パッドA（LC-39A）から無事打ち上げられました。この発射施設は、アポロ計画やスペースシャトル計画といった、アメリカ宇宙開発史における重要なミッションの打ち上げに使用されてきた歴史的な場所です。CRS-10の打ち上げは、スペースシャトル計画の最終フライト（STS-135）以来の有人・無人を含む打ち上げであり、また、1973年のスカイラブ打ち上げ以来となる、LC-39Aからの無人ミッションの打ち上げとなりました。
打ち上げ成功後、ファルコン9の第1段ロケットは、事前に設定された軌道制御噴射を経て、地上着陸地点（LZ-1）へ安全に帰還・着陸しました。これは、ファルコンロケットの第1段が地上に日中に着陸した初めての事例となりました。
ISSとのランデヴーと補給
打ち上げられたドラゴン宇宙船は、ISSへ向かう途中で予期せぬ事態に直面しました。2月22日に予定されていたISSとのランデヴー（接近・結合）の際、航法システムから不正なデータが報告されたため、機上コンピューターが接近を自動的に中止したのです。これはドラゴン宇宙船による初のランデヴー中止事例となりました。問題は、ISSとの相対位置を正確に把握するためのGPSデータに異常があったことが原因でした。このエラーを修正するため、ドラゴン宇宙船はISS周辺を周回する待機軌道へ移動し、約24時間後に再度の接近が試みられました。2度目の試みは成功し、ドラゴン宇宙船は2月23日10時44分（UTC）にISSのロボットアーム（カナダアーム2）によって捕捉され、数時間後の13時12分（UTC）にハーモニーモジュールへ係留されました。このランデヴー中止については、後にNASAの監査によって、NASAとスペースXの間におけるソフトウェア開発プロセスの違いが原因の一つであったことが指摘されました。
CRS-10ミッションでは、与圧貨物1,530 kgと非与圧貨物960 kgを合わせた、総計2,490 kgの物資がISSへ届けられました。与圧貨物には、科学調査用の機器やサンプル（ACME, LMM Biophysicsなどのペイロードを含む）、乗組員の生活用品、宇宙船の維持に必要なハードウェア、船外活動用の装備、コンピューター関連資材などが含まれていました。非与圧貨物としては、地球観測機器のSAGE IIIや、米国防総省の宇宙試験プログラムパッケージであるSTP-H5などが搭載されました。
帰還とミッション完了
ISSでの滞在期間を終えたドラゴン宇宙船は、2017年3月18日21時20分（UTC）にISSからロボットアームによって分離されました。その後、ISSの真下にあたる分離地点へ移動し、翌日3月19日09時11分（UTC）にアームから解放されました。ドラゴンはISSから安全に離れるための軌道制御を行った後、地球への帰還準備に入りました。14時00分（UTC）頃に最終的な軌道離脱噴射を行い、大気圏への再突入を経て、14時46分（UTC）にカリフォルニア州ロングビーチ沖約320 kmの太平洋上に無事着水しました。
帰還したドラゴン宇宙船は、ISSで実施された様々な研究のサンプルや、使用済みの科学・クルー関連機器、船外活動装備品など、合計1,652 kgの貨物を地球へ持ち帰りました。一方、ISSの外部に搭載されていた一部の実験装置（MISSEモジュールなど）を含む811 kgの外部貨物は、ドラゴンの非与圧トランク部分に積載され、再突入時にトランクごと燃え尽きる形で廃棄されました。
新しい飛行安全システムの実運用
CRS-10ミッションの打ち上げは、スペースXにとってだけでなく、アメリカの宇宙開発にとっても重要な意味を持つ出来事がありました。このミッションから、新しい「自律飛行安全システム（AFSS）」が初めて実運用されたのです。AFSSは、ロケットの飛行経路が安全範囲から逸脱した場合に、地上の管制官の操作を待たずに、搭載されたシステムが自動的に判断してロケットを停止させる技術です。これにより、公共の安全性が向上するだけでなく、地上のインフラへの依存度を下げ、遠隔地からの打ち上げコスト削減、スケジュールの予測性や運用上の柔軟性の向上といった多くの利点があります。AFSSはNASA、空軍、DARPAが共同開発したソフトウェアをベースに、スペースXが独自のソフトウェア層を追加したもので、CRS-10以前の13回のファルコン9ミッションで「シャドウモード」（実際の制御は行わずデータを取得するだけ）で試験されていました。CRS-10は、このシステムが初めてアクティブに使用されたミッションとなりました。
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