スマラン事件

スマラン事件：終戦直後のジャワで起きた悲劇

スマラン事件は、1945年10月15日から19日にかけて、ジャワ島スマランで発生したインドネシア軍と日本軍との武力衝突です。第二次世界大戦の終結直後、日本軍が保有していた武器の引き渡しを巡る対立が発端となり、多くの民間人を含む犠牲者を出す惨事となりました。インドネシアでは「五日間戦争」として知られています。

背景

日本の敗戦と蘭印

太平洋戦争中、オランダ領東インド（蘭印）は日本軍によって占領されていました。ジャワ島は蘭印の中心地でありながら、終戦まで連合国軍の上陸はなく、インドネシアの独立準備も進展していませんでした。1945年8月、日本の敗戦により、ジャワ島に駐屯していた日本軍は連合国軍によって武装解除されることになりました。連合国軍の進駐は徐々に行われ、その間の治安維持は日本軍が担当することになりました。

インドネシア独立派の動き

一方、1945年8月17日にインドネシア独立を宣言した独立派は、オランダとの戦争に備えて日本軍に武器の引き渡しを要求しました。しかし、日本軍はこれを拒否。連合国軍も現地人の武器携帯を禁止したため、独立派の不満は高まり、日本軍の倉庫や部隊を襲撃して武器を奪う動きが活発化しました。

各地での衝突

ジャワ各地で日本軍とインドネシア独立派との間で緊張が高まりました。バンドンでは日本軍憲兵隊や飛行場が襲撃され、鎮圧される事件が発生。ガルーでは工場の警備をしていた日本兵が殺害され、ブカシでは竹下海軍大佐一行が拉致殺害されるなど、各地で衝突が起きました。日本軍は武器使用を禁止されていたため、対応に苦慮する状況でした。

スマランの状況

スマランには、終戦時に約600人の日本軍兵士が滞留していました。スマラン周辺には外国人収容所があり、約3万人のオランダ系民間人が居住していました。連合国軍部隊の到着が遅れる中、スマランでは日本軍が治安維持を担当していました。

武器引き渡し要求

中部ジャワでも他の地域と同様に、独立派による武器引き渡し要求が高まっていました。スマランでは、10月3日に独立派住民の代表が日本軍の城戸少佐に武器の引き渡しを要求。一部の武器が貸与されましたが、状況は改善しませんでした。

事件の経過

10月12日、独立派の群衆が再び日本軍駐屯地を訪れて武器の引き渡しを要求しましたが、城戸少佐は拒否。その後、スマランやマゲラン周辺の治安は急速に悪化しました。10月12日には、スマラン製鉄所の日本人作業員や軍人ら339人が拘束され、13日には市民や赤十字関係者などの外国人も拘束されました。スマラン市内では約2000人の外国人がブル女子刑務所に監禁されました。マゲランでは中部防衛隊司令部が包囲され、中村少将を含む全員が拉致されました。

日本軍の反撃

10月14日夜、拘束や殺害事件を知った城戸少佐は、武力行使を決断。15日午前3時30分に日本軍はインドネシア側武装勢力に対して攻撃を開始しました。装備と練度に勝る日本軍はインドネシア側を圧倒し、19日までに市内を制圧しました。この間、イギリス軍が上陸しましたが、戦闘には加わりませんでした。

停戦協定

10月19日、日本軍とインドネシア人民治安団の間で停戦協定が結ばれました。

結果

スマラン事件は、ジャワ島における武器引き渡しを巡る争乱の中で最大の惨劇となりました。インドネシア側は1000～2000人が死亡、日本軍は28人が戦死、15人が行方不明となりました。ブル刑務所に監禁されていた日本人149人が殺害され、30人が行方不明となっています。一方、同刑務所に監禁されていたオランダ系市民900人は日本軍の救出により無事でした。

インドネシア側の評価

インドネシア側では、スマラン事件は独立闘争期の一紛争として扱われています。高校の歴史教科書には、日本軍と青年たちの激しい戦いの一例として記述されています。

その後

停戦後も周辺地域の治安は完全には回復せず、10月19日にはカリウングの王子製紙工場が襲撃され、従業員53人が殺害される事件が発生しました。連合国軍はマゲランの外国人収容所の救出を命じ、日本軍とイギリス軍が協力してマゲランへ進攻し、10月29日に収容所を保護下に置きました。

戦後

ジャワ島では終戦後、1947年の復員までに1078人の日本人が死亡しました。その多くはスマラン事件のような武器引き渡しを巡る紛争が原因でした。また、日本軍に課せられた治安戦闘任務は、捕虜虐待に当たる可能性も指摘されています。

武器の流出

一連の騒乱の中で、ジャワ島の旧日本軍の武器の多くがインドネシア独立派の手に渡りました。これらは後のイギリス軍とのスラバヤの戦いで使用されることになりました。

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