スミスチャート

スミスチャートとは

スミスチャートは、電子工学における高周波回路設計で、伝送路のインピーダンス整合を視覚的に行うための円形図表です。複素インピーダンスを直感的に把握できるため、高周波回路の設計や解析に広く用いられています。

発明の歴史

スミスチャートは、1939年にベル研究所のエンジニア、フィリップ・スミスによって発明されました。スミスは、計算尺を用いて数学的な関係を図で表現することに関心を持っており、その興味がスミスチャートの発明につながったとされています。しかし、スミスの提案に先立つ1937年、日本無線電信株式会社の水橋東作が、正規化インピーダンスに対する等価な図表を論文で発表していました。このため、日本国内ではスミスチャートを水橋チャート、または水橋-スミスチャートと呼ぶべきだという意見もあります。

スミスチャートの基本原理

スミスチャートは、以下の式で表される複素反射係数Γと正規化インピーダンスzLの関係に基づいています。


Γ = (zL - 1) / (zL + 1)


ここで、

Γ は複素反射係数（散乱係数sまたはs11とも呼ばれる）
zL は伝送路の負荷の正規化インピーダンスで、ZL/Z0に等しい
ZL は負荷のインピーダンス
Z0 は伝送路の特性インピーダンス

スミスチャートは複素平面で表され、水平軸は反射係数の実数部、垂直軸は虚数部を表します。図上の各円はインピーダンスの抵抗成分が一定であることを示し、曲線（円弧）はリアクタンス成分が一定であることを示します。図の中心は負荷と伝送線路が整合している状態を表し、周囲は100%の反射状態に対応します。周囲に書かれた角度は反射係数の位相を0度から180度（半波長）で示します。

アドミタンスチャートとイミタンスチャート

インピーダンスではなくアドミタンス（インピーダンスの逆数）を表すスミスチャートをアドミタンスチャートと言います。アドミタンスチャートは、スミスチャートを180度回転させて作成されます。スミスチャートとアドミタンスチャートを重ね合わせたものをイミタンスチャートと呼びます。これにより、インピーダンスとアドミタンスの両方を同時に解析することができます。

スミスチャートの現代的な利用

コンピュータの普及により、紙のスミスチャートを使用する機会は減りましたが、高周波の複素インピーダンスを視覚的に把握する方法として、その有用性は依然として高いです。特に電磁気学や電波工学を学ぶ学生にとっては、スミスチャートを用いた演習が不可欠な教育手段となっています。

また、ネットワークアナライザという測定器では、測定結果をスミスチャートの形で表示することが一般的です。ネットワークアナライザは、現代の高周波回路設計に欠かせない測定器であり、スミスチャートはその表示形式として重要な役割を担っています。

まとめ

スミスチャートは、その直感的な表現力と視覚的な解析能力により、高周波回路設計における重要なツールとしての地位を確立しています。歴史的な背景や等価な図表の存在、教育における重要性、現代的な利用方法など、多岐にわたる側面からその価値を理解することが大切です。

参考文献

Field and Wave Electromagnetics, David K. Cheng, Addison Wesley, ISBN 0-201-52820-7

外部リンク

スミスチャート - ウェイバックマシン - アンテナ製作時のインピーダンスチャート、アドミタンスチャート、イミタンスチャートの使用例
The Art of Analog Circuits, Smith chart - スミスチャートでの整合のとり方
スミスチャート - インピーダンスチャートとアドミタンスチャートの使い方

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