スミレサイシン

スミレサイシン（菫細辛）

スミレサイシン（学名: Viola vaginata）は、スミレ科スミレ属に分類される日本固有の多年草です。その和名は、花が終わった後の葉の形が、ウマノスズクサ科の植物であるウスバサイシンに似ていることに由来します。

分布と生育環境

スミレサイシンは、北海道南西部、本州（山口県までの日本海側）、そして北日本では太平洋側、さらに四国（徳島県）に分布しています。特に、日本海側の多雪地帯に生育する代表的なスミレとして知られています。興味深いことに、日本海側にスミレサイシンが分布するのに対し、太平洋側にはナガバノスミレサイシンが分布するという地域的な偏りが見られます。

生育環境としては、標高の高くない山地の半日陰で湿り気のある落葉樹林下を好みます。これらの場所に大小の集団を作って生育している様子が観察されます。

特徴

スミレサイシンは、地下茎がワサビのように太く、横に伸びて節が多いという特徴を持っています。地上茎を持たない無茎性のスミレであり、草丈は5 - 15 cm程度です。葉は日本のスミレの中では最大級の大きさを誇り、花期にはまだ十分に展開していないことが多いです。葉の基部は表面に向かって巻いており、花よりも遅れて開きます。数枚の葉が根元から生え、両面とも緑色でやや厚みがあり、ほとんど毛がありません。葉の形は三角状広披針形で、花時の長さは3 - 5 cm、果実が成熟する時期にはさらに大きくなり、15 cmに達することもあります。葉の先端は尖っており、基部は心形、縁には低い鋸歯があります。分布域の北部では一般的に葉が大きく幅広くなる傾向があり、西部ではより小さく狭長になります。葉柄は花期には15 cmにもなることがあります。古い托葉は葉柄から離れて根元につき、膜質で褐色をしています。

花は淡紫色で、花弁の長さは15 - 20 mmです。側弁には毛がなく、唇弁には紫色の条が入ります。距は短く太い袋状で、長さは4 - 5 mmです。雌蕊の柱頭はくちばし状に長く、花柱の上部はカマキリの頭のような形をしています。萼片は広披針形で、付属体には鋭い切れ込みがあります。花期は3月から6月にかけてで、果実は蒴果で、熟した後に裂開して種子を飛ばします。

利用

スミレサイシンの花と葉は食用として利用できます。葉は夏から秋にかけて採取でき、さっと茹でて水にさらし、おひたしや和え物にしたり、生のまま天ぷらにすることも可能です。花は熱湯にくぐらせて、酢の物や椀種にしたり、生花を料理のあしらいとして利用します。

また、地域によっては、地下茎をすり下ろして、または粉にしてとろろのように料理して食用とする習慣があります。そのため、スミレサイシンを「トロロスミレ」と呼ぶ地方もあります。

分類

スミレサイシンは、スミレサイシン類に分類されます。いくつかの品種が知られており、その中には以下のものがあります。

ウスジロスミレサイシン（薄白菫細辛、学名：Viola vaginata Maxim. f. albescens Sugim.）
シロバナスミレサイシン（白花菫細辛、学名：Viola vaginata Maxim. f. albiflora Honda） - 白花の品種です。
サンインスミレサイシン（山陰菫細辛、学名：Viola vaginata Maxim. f. satomii (F.Maek. et T.Hashim.) E.Hama, nom. nud.） - 葉が細長くなるもので、ナガバノスミレサイシンよりも先端がさらに細く尖ります。北陸より西の山陰地方に多く見られます。山陰地方のものを変種 var. satomii として扱う見解もありますが、スミレサイシンの地理的変異は連続的で、種としては均一であるという研究結果も存在します。

種の保全状況評価

日本では、国レベルでの環境省によるレッドリストの指定はありませんが、以下の都道府県でレッドリストの指定を受けています。

絶滅危惧IA類 - 徳島県
* 絶滅危惧IB類 - 愛知県

スミレサイシンは、地域によってはその生育が脅かされている現状があります。生育環境の保全や適切な管理が求められています。

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