スローなブギにしてくれ

「スローなブギにしてくれ」とは

片岡義男の手がけた短編青春小説で、作者の代表作の一つに数えられます。オートバイを駆る高校生の少年と、猫を異常なほど愛する家出少女が出会い、不器用ながらも奇妙な同棲生活を送る姿を描いています。

本作は『野性時代』（角川書店）1975年8月号に発表され、同誌主催の第2回野性時代新人文学賞を受賞。さらに、第74回直木賞の候補作にも選ばれ、高い評価を受けました。1976年3月には、本作を表題作とする同名の短編小説集が角川書店から刊行されました。

この小説を原作として、同名の映画が製作され、さらに映画の主題歌として南佳孝による楽曲「スローなブギにしてくれ (I want you)」が生まれ、こちらもヒットを記録しました。

小説の書誌情報

1976年3月に角川書店から単行本が刊行された後、1979年6月には角川文庫版が登場しました。一度は絶版となりましたが、2001年7月には加筆・修正、再編集が施された新たな同名短編集として角川文庫より再刊されています。

• - スローなブギにしてくれ（1976年2月23日、角川書店）
• - スローなブギにしてくれ（1979年6月、角川文庫）
• - 片岡義男 31 stories 1（1987年1月、晶文社）※本作を収録
• - スローなブギにしてくれ（2001年7月25日、角川文庫）

小説のあらすじ（ネタバレ注意）

夕暮れ時の第三京浜をオートバイで走っていた少年は、白いムスタングから投げ出された子猫と、その子猫を追って車を降りた少女を拾います。そのまま少年は少女と、自身のアパートでの共同生活を始めます。

しかし、少女の猫に対する愛情は常軌を逸しており、少年は次第に我慢できなくなります。あるドライブ中、彼は衝動的に15匹の猫を次々と車窓から投げ捨て、さらに少女を遠く離れた駅前に置き去りにしてしまいます。その夜、少年は自暴自棄になり荒れますが、少女は3日後に少年の元へ戻ってきます。二人は元の関係に戻り、少女のアルバイト先であるバーのマスターから復縁祝いの曲を贈ると言われた少年は、「スローなブギ」をリクエストするのでした。

映画版について

1981年3月7日に公開された同名映画は、東映と角川春樹事務所が製作し、東映洋画が配給を担当しました。浅野温子の映画初主演作であり、その小悪魔的な魅力を持つ演技が話題を呼びました。

映画の脚本は、原作小説「スローなブギにしてくれ」を基盤としつつ、片岡義男の他の短編「ひどい雨が降ってきた」「俺を起こして、さよならと言った」のエッセンスを取り入れ、さらに独自のオリジナルエピソードや後日譚が加えられて構成されています。主なロケ地は神奈川県大和市や東京都福生市周辺です。原作と異なり、映画の主人公である男性は、オートバイに乗る高校生ではなく、アルバイトで生計を立てる年上の社会人という設定になっています。

映画製作の舞台裏

監督は藤田敏八が務めました。当初1980年7月のクランクインを予定していましたが、脚本の遅延により内田栄一が新たに脚本を担当することになり、クランクインは約3ヶ月遅れました。物語は夏の始まりから晩夏にかけての設定でしたが、実際の撮影は晩秋から始まりました。藤田監督はドキュメンタリータッチを志向し、オールロケと同時録音にこだわったため、撮影現場はかなりの寒さだったといいます。

映画の公開に先立ち、「片岡義男ワールド」のシンボルマークデザインが一般公募されました。採用されたグラフィックデザイナー峰尾裕己のデザインは、映画の宣伝や角川文庫版片岡作品のカバーにも使用されました。

また、作中に登場するスナック「クイーンエリザベス」は、当時角川春樹事務所が輸入販売していたスコッチウイスキーの銘柄から取られています。

映画の興行と評価

公開初日の客入りは芳しくなく、興行成績は辛うじて原価を回収するレベルにとどまりました。製作を手掛けた角川春樹は後年、この映画を興行的に失敗作であり、作品自体の出来も不出来だったと評しています。彼は浅野温子の演技だけは光っていたとしつつも、全体としては不本意な仕上がりだったと語りました。その原因として、監督との意思疎通の不足や、脚本に対する原作者の不満を挙げつつ、最大の要因は藤田監督が自身の姿を出演者の山崎努に重ね、青春映画ではなく中年が中心の映画になってしまったことだと断じています。角川は、原作の持つ軽やかで爽やかな雰囲気を表現したかったが実現できなかったこと、プロデューサーとして作品に責任を持つには限界があると感じたことから、自身が監督業に進出するきっかけの一つとなった作品だったと明かしています。

映画版のあらすじ

夕暮れ時、第三京浜をオートバイで走る青年は、白いムスタングから放り出された子猫と若い女性を拾います。そのムスタングを運転していた男は、福生の旧米軍ハウスで青年を含む男二人と女性一人の奇妙な共同生活を送っており、彼自身は別居中の妻と子供がいました。しかし、ある日突然、この共同生活を送る男性の一人が急死したことから、かろうじて保たれていた彼らのデリケートな関係性のバランスが崩れ始めます。

主なスタッフ・キャスト

• - 製作：角川春樹
• - 監督：藤田敏八
• - 原作：片岡義男
• - 脚本：内田栄一
• - 撮影：安藤庄平
• - 音楽：南佳孝
• - キャスト：浅野温子（さち乃）、古尾谷雅人（ゴロー）、山﨑努（ムスタングの男）、浅野裕子（敬子）、竹田かほり（由紀江）、室田日出男（クイーンエリザベスのマスター）、春川ますみ（さち乃の母春代）、赤座美代子（花絵）、小林綾子（マリ）、伊丹十三（弁護士）、原田芳雄（宮里輝男）ほか

映像ソフト

本作のセルビデオは、東映ビデオから1985年10月21日に発売されました。

関連事項

• - スローな武士にしてくれ〜京都 撮影所ラプソディー〜：本作をもじったテレビドラマ。主題歌に「スローなブギにしてくれ (I want you)」が使用されました。

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