スローな武士にしてくれ〜京都 撮影所ラプソディー〜

概要

『スローな武士にしてくれ〜京都 撮影所ラプソディー〜』は、2019年3月23日にNHK BSプレミアムの「スーパープレミアム」枠で放送された日本のテレビドラマです。源孝志氏が脚本と演出を手がけ、俳優の内野聖陽氏が主演を務めました。

この作品は、京都の歴史ある撮影所を舞台に、最先端の撮影機材を用いて時代劇を制作することになったスタッフや俳優たちの舞台裏での奮闘を、ユーモラスかつリアルに描き出しています。特に、最新技術と伝統的な「活動屋魂」の融合をテーマとし、衰退が危惧される時代劇の新たな可能性を探る試みとして注目されました。「新技術チャンバラ ドラマ」と銘打たれ、斬新な映像表現が随所に盛り込まれています。

その高い評価は、以下の受賞歴にも裏付けられています。

第56回（2018年度）ギャラクシー賞 テレビ部門 フロンティア賞
第35回ATP賞テレビグランプリ 総務大臣賞
令和元年度（第74回）文化庁芸術祭賞 テレビ・ドラマ部門 優秀賞
令和元年度（第70回）芸術選奨文部科学大臣賞 放送部門（源孝志）

2020年3月20日には、90分に再編集された短縮版がNHK総合で地上波再放送されました。

製作背景

本作は、演出の源孝志氏が長年抱いていた「最新鋭の技術で、往年の時代劇のように格好良い作品を撮りたい」という熱意から生まれました。現実のNHKからの「最新技術を用いたドラマ制作」という依頼が、物語の着想に繋がっています。過去の時代劇が勧善懲悪パターンに偏り、視聴者から敬遠されがちになった現状に対し、新たなアプローチで時代劇の魅力を再発見しようとする試みでもあります。

Maki

撮影は東映京都撮影所で行われ、往年の名作時代劇へのオマージュが数多く散りばめられています。特に、映画『蒲田行進曲』への深い敬意が示されており、そのほか『椿三十郎』や『十三人の刺客』といった作品のエッセンスも感じられます。

特徴的な撮影技術

本作の見どころの一つは、最新技術を駆使した映像表現です。具体的には、以下のような技術が取り入れられています。

スーパースローモーション: 最先端のハイスピードカメラを使用し、水しぶきや刀の動きといった瞬間を極めて鮮明に捉えます。
360度撮影: 全方位をブレなく撮影できる機材を用い、特に迫力ある「ワンカット13人斬り」シーンに活かされています。
ワイヤーアクション: 俳優だけでなくカメラマンもワイヤーで吊られ、空間を移動しながら撮影する手法で、クライマックスの「池田屋階段落ち」シーンをダイナミックに表現しました。
ドローン: 空撮はもちろん、空撮しているドローンを別のドローンで撮影するというユニークな手法も用いられています。
ロープカム: ケーブル上を滑走するカメラで、独特の視点とスピード感を提供します。
ラジコンカメラ: 時速30〜40kmでの走行が可能なカメラで、追跡シーンなどに臨場感を与えます。

これらのハイテク機材と、時代劇を長年支えてきた剣劇俳優たちの熟練の技や撮影スタッフの経験、すなわち「ヒューマンファクターとテクノファクターの融合」こそが、本作を成立させている要素であると源氏は語っています。

あらすじ

物語は、京都にある老舗の映画スタジオ「京映撮影所」に、NHKから「最新技術を使った時代劇のパイロット版を制作してほしい」という依頼が舞い込むところから始まります。これを受けて、時代劇に異常なほど詳しい一流エンジニア、田所新之助が最新機材と共に派遣されます。監督の国重五郎は、その殺陣の腕を見込み、普段は斬られ役専門の大部屋俳優である村田茂雄、通称シゲちゃんを主役に抜擢します。

題材は幕末の「池田屋事件」に決まりますが、フィルムでの撮影に慣れ親しんだベテランの撮影所スタッフたちは、見たこともないハイテク機材の扱いに戸惑いを隠せません。さらに、主演のシゲちゃんは、極度に緊張するとセリフの声が裏返ってしまうという致命的な弱点を抱えていました。

しかし、次々と発生する技術的な課題や、シゲちゃんの抱える問題を、ベテランスタッフの知恵や経験、そして京都の「活動屋魂」が最新技術と結びつくことで克服していきます。誰も見たことのない斬新な映像表現が次々と生み出され、物語はクライマックスへ向かいます。特に、世界最高レベルのハイスピードカメラとワイヤーアクションを組み合わせた、前例のない「池田屋階段落ち」シーンの撮影に挑む様子が、ドラマの大きな山場となります。

この作品は、最新技術導入の苦労と、それに立ち向かう人々の情熱をコミカルに描きながら、時代劇制作の舞台裏にある人間ドラマと、日本の伝統文化である時代劇の灯を未来へ繋げようとするメッセージを力強く伝える作品となっています。

主な登場人物

村田茂雄（シゲちゃん）: 内野聖陽
殺陣の達人だが、セリフが苦手な大部屋俳優。本作の主人公。
田所新之助: 柄本佑
時代劇マニアのNHK技術者。最新技術導入の中心人物。
村田富士子: 水野美紀
シゲちゃんの妻。元アクション女優。
朽木城太郎（ジョウちゃん）: 中村獅童
シゲちゃんの友人の大部屋俳優。複雑な感情を抱く。
武藤幸四郎: 本田博太郎
最新技術に戸惑うベテランカメラマン。
八村良造: 伊武雅刀
予算第一の撮影所所長。
国重五郎: 石橋蓮司
シゲちゃんの才能を見抜く映画監督。
里見浩太朗（コウちゃん）: 里見浩太朗
シゲちゃんの技量を評価する時代劇スター俳優。

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