スロー・ドラッグ

スロー・ドラッグ

ジャズ・トランペット奏者、ドナルド・バードが1967年に録音し、翌1968年にブルーノート・レコードから発表したスタジオ・アルバムが『スロー・ドラッグ』です。この作品は、バードがキャリアの中でハード・バップからフュージョンへと音楽性を変化させていく過程において、ハード・バップ期を締めくくる時期に制作された重要な一枚と位置づけられています。

アルバムの位置づけとメンバー

本作は、ドナルド・バードがアルト・サクソフォーン奏者のソニー・レッドとベーシストのウォルター・ブッカーを自身のグループに迎えた体制で制作された、3枚目にあたるアルバムです。また、ピアニストのシダー・ウォルトンとドラマーのビリー・ヒギンスは、前年に録音・発表された先行作品『ブラックジャック』にも参加しており、本作で再びバードのサウンドを支えています。この盤石のメンバー構成が、アルバム全体のクオリティを高めています。

音楽性と評価

音楽評論家のスコット・ヤナウは、音楽データベースサイト「オールミュージック」において、本作に5点満点中4点を与え、バードのハード・バップ期における末期の録音の一つとして評価しています。ヤナウは、このアルバムでバードがブルースの要素に立ち返りつつも、同時にモーダル・ジャズやアヴァンギャルドの片鱗をも示唆する先進的なアプローチを見せている点を特筆しています。収録曲の中には、長い演奏時間を持つトラックも含まれており、メンバーそれぞれのソロが十分に展開されることで、ライブ感にも通じる熱気が感じられます。表題曲「スロー・ドラッグ」は、文字通り引きずるような重厚なリズムが特徴的で、ドラムスのビリー・ヒギンスがここでは珍しくボーカルも担当しており、アルバムにユニークな彩りを添えています。バラードやボッサ、ブルースフィーリング溢れる楽曲など、多様なスタイルが収録されており、バードとそのグループの幅広い音楽性が示されています。

収録曲

アルバムには以下の6曲が収録されています。各楽曲の作曲者クレジットと演奏時間は以下の通りです。

スロー・ドラッグ - "Slow Drag" (Donald Byrd) - 9:46
本作の表題曲。重厚なグルーヴと、ビリー・ヒギンスのボーカルが特徴的です。
シークレット・ラヴ - "Secret Love" (Sammy Fain, Paul Francis Webster) - 3:59
ミュージカルのために書かれたスタンダード曲の解釈です。
ブックス・ボッサ - "Book's Bossa" (Walter Booker, Cedar Walton) - 6:52
参加メンバーであるウォルター・ブッカーとシダー・ウォルトンの共作によるボッサ・スタイルのオリジナル曲です。
ジェリー・ロール - "Jelly Roll" (Sylvester Kyner) - 5:21
ブルースフィーリング溢れるオリジナル曲です。
ザ・ローナー - "The Loner" (C. Walton, Ronnie Mathews) - 6:16
シダー・ウォルトンとロニー・マシューズの共作による楽曲です。
マイ・アイディアル - "My Ideal" (Leo Robin, Newell Chase, Richard A. Whiting) - 6:20
こちらも古くから愛されるスタンダード・ナンバーです。

各曲は、メンバーのソリッドなアンサンブルと個々の力量が光るソロワークによって、それぞれの魅力を最大限に引き出しています。特に長尺のオリジナル曲では、バンドとしてのまとまりと、ジャズらしいインプロヴィゼーションの醍醐味が存分に味わえます。

まとめ

『スロー・ドラッグ』は、ドナルド・バードのトランペットを中心に、才能あるメンバーたちが一体となった素晴らしい演奏が収められたアルバムです。ハード・バップを基盤としつつも、ブルースへの深い敬意と、時代を先取りするようなモーダルな響き、そしてアヴァンギャルドにも通じる探求心が見事に融合しており、バードの音楽的な過渡期における充実ぶりを伝える作品と言えるでしょう。後年のフュージョン期とは異なる、この時期ならではの緊張感と創造性が詰まった、ジャズファンにとって聴きごたえのある一枚です。Discogsなどのサイトでは、本作の様々な発売形態に関する情報も確認できます。

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