スワン座

スワン座：エリザベス朝演劇の輝きと影

スワン座は、ウィリアム・シェイクスピアが活躍した時代、1595年にロンドンのサザーク地区に建設された劇場です。テムズ川南岸のパリスガーデンに位置し、ロンドン中心部から渡し船でアクセスできる立地でした。当時、ロンドンにはジェームズ・バーベッジのシアター座など複数の劇場が存在していましたが、スワン座はその中でも最大規模を誇り、洗練された建築様式で知られていました。

建造と華麗な外観

スワン座の建設は、フランシス・ラングリーによって進められました。かつて王室領だった土地を購入し、ロンドン橋に近い場所に劇場を建設したのです。建築材料には燧石のコンクリートが用いられ、木製の支柱は巧みな塗装によって大理石のように見えたと伝えられています。オランダ人ヨハネス・デ・ウィットが残したスケッチは、現存するエリザベス朝時代の劇場の唯一の図像資料として、スワン座の「ローマ風」の外観を後世に伝えています。デ・ウィットは、スワン座を3,000人を収容できるロンドン最大の円形劇場と評しています。

興隆と衰退：劇団とスキャンダル

スワン座は、当初は宮内大臣一座などの劇団が使用していました。1597年にはペンブルック伯一座が拠点とし、トマス・ナッシュとベン・ジョンソンによる問題作『犬の島』の上演も行われました。しかし、『犬の島』は権力者を風刺した内容であったため、女王の怒りを買い、ジョンソンをはじめとした関係者が投獄される事態となりました。この事件をきっかけに、スワン座は一時的に閉鎖を余儀なくされます。その後も、許可を得られないまま公演を続けるなど、スワン座は様々な困難に直面しました。1602年には、架空の戯曲『イングランドの喜び』の上演を宣伝したものの、実際には上演されず、観客が暴動を起こすという事件も発生しました。

スワン座と上演作品

スワン座ではシェイクスピア作品の上演記録は確認されていませんが、時代を代表する劇作家たちの作品が上演されたと考えられます。代表的な作品として、トマス・ミドルトンの『チープサイドの貞淑な乙女』が挙げられます。また、劇以外にも剣戟大会や熊いじめといった大衆娯楽も提供していました。

終焉

17世紀に入ると、スワン座は徐々に衰退していきました。1632年のパンフレットでは、「朽ち果て、死に瀕した白鳥」として描写されており、その後、史料からその姿は消えます。ロンドンにおける演劇の規制や、劇場の老朽化、そしてスキャンダルなどが、スワン座の衰退に繋がったと考えられます。

史的意義

スワン座は、シェイクスピア演劇が花開いたエリザベス朝演劇を象徴する劇場の一つです。その建築、上演作品、そして様々な事件を通して、当時の社会情勢や演劇文化を理解する上で貴重な史料となっています。デ・ウィットのスケッチは、当時の劇場建築を知る上で貴重な資料であり、スワン座の物語は、栄光と挫折を繰り返したエリザベス朝演劇の一端を垣間見せてくれます。 スワン座の歴史は、単なる劇場の歴史にとどまらず、当時の社会、政治、文化を反映した複雑で興味深いものです。

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