スヴャトスラフ1世のブルガリア侵攻

スヴャトスラフ1世のブルガリア侵攻：10世紀バルカン半島の覇権争い

10世紀後半、東ヨーロッパのバルカン半島を舞台に、キエフ・ルーシのスヴャトスラフ1世、第一次ブルガリア帝国、そして東ローマ帝国の三者が繰り広げた戦役があります。それは、スヴャトスラフ1世のブルガリア侵攻です。この戦いは、単なる領土争いにとどまらず、当時の国際情勢や各国の思惑が複雑に絡み合ったものでした。

侵攻の背景：東ローマ帝国とブルガリア帝国の対立

10世紀初頭、バルカン半島では東ローマ帝国とブルガリア帝国が覇権を争っていました。シメオン1世の時代にブルガリア帝国は最盛期を迎え、東ローマ帝国から領土を奪い、皇帝号を認めさせるほどでした。しかし、927年にシメオン1世が死去すると、両国の関係は改善に向かい、和平条約が締結されます。以後40年間、両国は比較的安定した関係を維持しました。

しかし、東ローマ帝国は東方で勢力を拡大し、周辺国と同盟を結んでブルガリア帝国を包囲するようになります。965年、東ローマ皇帝ニケフォロス2世フォカスは、和平条約で定められたブルガリア帝国への貢納を停止し、宣戦布告しました。彼は、東方での戦争に忙殺されていたため、ルーシのスヴャトスラフ1世を傭兵として利用しようと考えたのです。

スヴャトスラフ1世の侵攻とブルガリア帝国の危機

ニケフォロス2世の思惑を超え、スヴャトスラフ1世はブルガリア帝国に侵攻し、瞬く間に北部・北東部を占領しました。ブルガリア皇帝ボリス2世は捕らえられ、傀儡として扱われるようになります。スヴャトスラフ1世は、ルーシからブルガリア帝国にまたがる巨大帝国の建設を目論み、南進を続けました。970年、ルーシ軍は東ローマ帝国と衝突しますが、アルカディオポリスの戦いで敗北を喫します。

東ローマ帝国の反撃とブルガリア帝国の滅亡

東ローマ皇帝ヨハネス1世ツィミスケスは反撃に転じ、ブルガリア帝国領内に侵攻して首都プレスラフを占領しました。ドロストポリでの包囲戦の末、スヴャトスラフ1世は東ローマ帝国と和平を結び、ブルガリア帝国から撤退しました。ヨハネス1世はブルガリア帝国東部を併合し、ボリス2世をコンスタンティノープルへ連行して退位させました。これにより、第一次ブルガリア帝国は事実上滅亡しました。

戦後のバルカン半島：ブルガリア帝国の再興と東ローマ帝国の苦戦

東ローマ帝国はブルガリア帝国東部を併合したものの、バルカン半島中部・西部への影響力は限定的でした。976年、ヨハネス1世が死去すると、ブルガリア帝国の再興を目指す勢力が台頭します。コミトプリ朝のサムイルは、マケドニアを中心にブルガリア帝国を再興し、東ローマ帝国と激しい戦いを繰り広げました。しかし、1018年、東ローマ帝国は再びブルガリア帝国を征服し、その歴史に終止符を打ちました。

まとめ

スヴャトスラフ1世のブルガリア侵攻は、10世紀のバルカン半島における勢力図を大きく塗り替える出来事でした。東ローマ帝国の思惑、ルーシの野望、そしてブルガリア帝国の衰退が複雑に絡み合い、最終的には東ローマ帝国の勝利という形で幕を閉じました。しかし、この戦いはブルガリア帝国の再興の芽を残し、その後のバルカン半島の歴史に大きな影響を与えることになったのです。

もう一度検索