スーパー・セッション

スーパー・セッション：偶然が生んだロック史に残る名セッション

1968年に発表された『スーパー・セッション』（Super Session）は、キーボード奏者のアル・クーパーを中心に、ギタリストのマイク・ブルームフィールドとスティーヴン・スティルス（アルバムクレジットではスティーヴ・スティルス名義）という、当時を代表する二人の名手を迎えて制作されたスタジオ・アルバムです。そのタイトルや連名にもかかわらず、これは三人のミュージシャンが同時に顔を合わせたセッションの記録ではありません。このアルバムは、LPレコードの片面にアル・クーパーとマイク・ブルームフィールドの共演、もう片面にはアル・クーパーとスティーヴン・スティルスの共演がそれぞれ収録されているという、ユニークな構成を持っています。

制作の背景

この企画の発端は、1968年初頭に行われたモビー・グレープのジャム・セッションに遡ります。ここでアル・クーパーはマイク・ブルームフィールドと共演しており、その演奏はモビー・グレープのアルバム『Grape Jam』に収められています。クーパーはこの時の経験から、自身が主導する形でブルームフィールドとのセッション・アルバムを制作するというアイデアを得たとされています。ブルームフィールドがカリフォルニア州でのレコーディングを希望したため、ロサンゼルスでこのセッションが実現することになりました。

セッションには、ベーシストのハーヴェイ・ブルックス、ドラマーのエディ・ホーが参加。また、バリー・ゴールドバーグもエレクトリックピアノで演奏に加わっています。ブルームフィールドとのセッションでは、最終的にアルバムのサイド1に収録された5曲に加え、当時は未収録となった「ブルース・フォー・ナッシング」も録音されました。しかし、このセッション中に不眠症に悩まされていたブルームフィールドは、翌日には置き手紙を残して急遽現場を離れてしまいます。

予期せぬ事態に見舞われたクーパーは、代替となるギタリストを急いで探す必要に迫られました。ロサンゼルス近郊に滞在していた複数のギタリストに連絡を試み、唯一スティーヴン・スティルスから好意的な返答を得ることができました。こうして、その日の夕方から翌朝にかけて、スティルスを迎えた新たなセッションが行われました。

両セッションの録音終了後、クーパーはサウンドに深みを加えるため、ホーン・セクションのオーバーダビングを施しました。レコーディング・エンジニアはフレッド・カテロとロイ・ハリーが務めました。

アルバム発表後も、アル・クーパーとマイク・ブルームフィールドは度々ライブで共演し、その演奏は公式に音源化されています。1968年9月のライブは1969年のアルバム『フィルモアの奇蹟』に、同年12月13日のフィルモア・イースト公演は2003年の『フィルモア・イーストの奇蹟』として発表されました。

反響と評価

『スーパー・セッション』は商業的にも成功を収め、アメリカのBillboard 200チャートで最高12位を記録しました。1970年12月には、RIAA（アメリカレコード協会）によってゴールドディスクに認定されています。

批評家からの評価も高く、音楽評論家のリンジー・プレイナーはオールミュージックにて5点満点中4.5点を与え、「ビートルズが前年に発表した『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』と同様、『スーパー・セッション』は、ロックン・ロールの同時発生的な変化が、いくつかの新しい段階に来ていることを早くから示した」と述べ、「本当の意味でのスーパー・セッション」としてその重要性を強調しました。

再発CDと収録曲

この名盤は後のCD再発においても、未発表音源などが追加されています。1995年のリマスターCDには、オリジナルのセッションで録音されながら当時は未収録だった「ブルース・フォー・ナッシング」がボーナス・トラックとして初めて公式収録されました。さらに、2003年のリマスターCDでは、オリジナルのミックスからホーン・セクションを取り除いた2曲のリミックス・ヴァージョンと、未発表ライブ音源が追加され、合計4曲のボーナス・トラックが収録されています。

オリジナルLPの収録曲は以下の通りです。

Side 1 (with Mike Bloomfield)
アルバートのシャッフル
ストップ
マンズ・テンプテーション
神の様式化された神聖なる威厳
リアリー

Side 2 (with Stephen Stills)
悲しみは果しなく
魔女の季節
ユー・ドント・ラヴ・ミー（夜明けに恋はない）
ハーヴェイの作った曲

2003年リマスターCDボーナス・トラックは以下の通りです。

アルバートのシャッフル（2002ノー・ホーンズ・リミックス）
魔女の季節（2002ノー・ホーンズ・リミックス）
ブルース・フォー・ナッシング
ファット・グレイ・クラウド（ライヴ）

その他の情報

収録曲の一つ「リアリー」は、1992年に公開されたアメリカ映画『スニーカーズ』のサウンドトラックに使用されています。

参加ミュージシャン

アル・クーパー - ボーカル、ピアノ、オルガン、オンディオライン、ギター、12弦ギター、ホーン・アレンジ
マイク・ブルームフィールド - ギター (Side 1)
スティーヴン・スティルス - ギター (Side 2)
ハーヴェイ・ブルックス - ベース
エディ・ホー - ドラムス
バリー・ゴールドバーグ - エレクトリックピアノ (Side 1の一部)
ジョー・スコット - ホーン・アレンジ

本作は、単なる寄せ集めではない、それぞれのセッションで化学反応を起こした質の高い演奏が収められており、タイトルの通り「スーパー・セッション」と呼ぶにふさわしい、ロック史における重要な作品の一つとして位置づけられています。

もう一度検索