セイヨウカンボク

セイヨウカンボク（西洋肝木）

セイヨウカンボク（学名: Viburnum opulus）は、レンプクソウ科ガマズミ属に分類される落葉低木です。別名ヨウシュカンボク（洋種肝木）とも呼ばれ、ヨーロッパに広く分布しています。その美しい姿から、庭木として観賞用に栽培されることが多く、特にウクライナやロシアでは文化的に重要な樹木として位置づけられています。

特徴

形態

樹高は通常2～5m程度まで成長します。樹皮は淡い灰色で、目立った割れ目は見られません。葉は長さ5～10cmで、3つに分かれた形状をしており、裏面には細かい毛が生えています。秋になると葉は鮮やかに紅葉し、美しい景観を作り出します。葉柄には蜜腺が存在します。

花期は5月から6月にかけてで、直径6～10cmほどの花序を形成します。花序の中心部には多数の小さな両性花が密集し、その周囲を縁取るように白い装飾花が咲き誇ります。花冠は5つに分かれています。果実は核果であり、10月頃に熟すと透明感のある鮮やかな赤色を帯びます。

分布

セイヨウカンボクは、イギリスからヨーロッパ大陸にかけて広く分布しており、その分布域は北アフリカや西アジアにまで及んでいます。

利用

セイヨウカンボクは、初夏に咲く白い花と、秋から冬にかけて見られる赤い実が観賞価値が高く、庭木として広く利用されています。果実は強い苦味があるため、生食には適していませんが、晩秋から冬にかけて寒気にさらされることで、わずかに甘味が増します。ロシアでは、この時期を待って果実を収穫し、ドライフルーツとして冬の保存食としたり、ウォッカに漬け込んで果実酒を造ったり、ジャムやジュース、砂糖漬けなどの加工品として利用します。加熱することで苦味が和らぐため、甘く味付けしたカーシャやピエロギの具材としても用いられます。

名称の由来

種小名のopulusは、カンボクのラテン語名に由来します。セイヨウカンボクはViburnum opulusの基準変種ですが、日本には自然分布していません。そのため、日本では変種のV. opulus var. sargentiiにカンボクの和名が与えられ、本種はセイヨウカンボクまたはヨウシュカンボクと呼ばれるようになりました。「肝木」という漢字があてられることがありますが、その由来は薬用として利用されていたためとも言われますが、明確な理由はわかっていません。

英語ではクランベリー・ブッシュ（cranberry bush）と呼ばれますが、北アメリカ大陸には近縁種であるアメリカカンボク（Viburnum trilobum）が分布しているため、アメリカ合衆国では特に本種を指してヨーロピアン・クランベリー・ブッシュ（European cranberry bush）と呼ぶことがあります。その他、ゲルデル・ローズ（guelder rose）や、白い花にちなんでウィッテン・ツリー（whitten tree）という別名もあります。変種のセイヨウテマリカンボクは、丸い塊状に咲く装飾花が雪玉のように見えることから、スノーボール・ツリー（snowball tree）とも呼ばれます。

主な変種・品種

カンボク (V. o. var. sargentii)：別名ケナシカンボク。東アジア東北部を中心に分布。
テマリカンボク (V. o. var. sargentii f. hydrangeoides)：園芸品種。花序全体が装飾花となったもの。
ケカンボク (V. o. var. sargentii f. puberulum)：枝や葉柄、花序枝に毛がある。
キミノカンボク (V. o. var. sargentii f. flavum)：果実が黄色の変種。
セイヨウテマリカンボク (V. o. var. sterile*)：テマリカンボクと同様に花序全体が装飾花となる変種。欧米で栽培される園芸品種に、花が淡紅色を帯びる‘Roseum’（‘ロセウム’）がある。

文化との関わり

ウクライナ

セイヨウカンボクはヨーロッパに広く自生していますが、特にウクライナでは「червона калина」（チェルボナ・カリーナ、「赤いガマズミ」の意）と呼ばれ、民族の象徴として非常に重要な意味を持っています。ウクライナ語のкалинаは、ガマズミ属を指すだけでなく、処女性や破瓜血という意味も持ち合わせています。

キーウの独立広場にある独立記念碑の頂上には、セイヨウカンボクの枝を掲げた女神像が設置されています。また、記念硬貨や切手にもセイヨウカンボクの実や葉が描かれることがあります。ウクライナの国章にもセイヨウカンボクを取り入れる試みがあり、大国章の案にはガマズミの実がデザインされています。

ロシア

ロシア語でも、セイヨウカンボクに代表されるガマズミ属をкалина（カリーナ）と呼びます。若い未婚の女性の象徴とされ、白い花は乙女の清らかな愛、赤い実は女性としての成熟と情熱的な愛、実の苦さは人生の苦難を表すとされています。ロシアの愛唱歌「カリンカ」は、美しい娘をガマズミの実に例えた恋歌として広く知られています。

このように、セイヨウカンボクはヨーロッパの文化において、美しさだけでなく、深い象徴的な意味を持つ植物として大切にされています。

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