セイヨウトネリコ

セイヨウトネリコ（Fraxinus excelsior）

セイヨウトネリコは、モクセイ科トネリコ属に分類される落葉高木です。ヨーロッパを中心に広く分布し、その成長の早さと多様な環境への適応力から、森林資源として重要な役割を担っています。

分布

セイヨウトネリコは、スカンジナビア半島北部からイベリア半島南部を除くヨーロッパ全域、およびトルコ北部からコーカサス地方にかけての西アジア北部に分布しています。特に温暖な地域や標高1500メートルまでの丘陵地、平野、沿岸地帯で多く見られます。また、栽培も広く行われており、ニュージーランドやアメリカ、カナダの一部地域では帰化種として定着しています。

形態

セイヨウトネリコは、樹高20〜35メートル、最大で45メートルに達する落葉樹です。ドーム状の樹冠を形成し、寒さに強く成長も早いのが特徴です。若い樹皮は滑らかで青灰色ですが、成長につれて厚くなり、縦にひび割れが生じます。新梢は丈夫で、黒緑色を帯びた灰色をしています。

葉は羽状複葉で、長さ20〜35センチメートル。小葉は7〜13枚で、長さ3〜12センチメートル、幅0.8〜3センチメートルです。葉は春の終わりに開き、秋の初めに落葉します。紅葉はせず、暗い緑色のまま落葉します。

花は葉が開く前に咲き、雌花は雄花よりも長く咲きます。花弁はなく、淡い紫色で風媒花です。雌雄同株の場合もありますが、一般的には雌雄異株で、雄花のみをつける木と雌花のみをつける木に分かれます。年によって雄木が雌木に変化することもあります。

果実は翼果で、長さ2.5〜4.5センチメートル、幅5〜8ミリメートルです。冬の間、枝にぶら下がっており、「ash key（トネリコの鍵）」と呼ばれます。未成熟で緑色の果実を種まきするとすぐに発芽しますが、茶色く成熟した果実は18ヶ月程度休眠します。

生態

セイヨウトネリコは幅広い土壌で生育できますが、特に石灰質の土壌を好みます。イギリスでは、北緯57.4278度の石灰岩地帯で生育しているのが確認されています。

また、多くのチョウの仲間がセイヨウトネリコを食料とし、イギリスでは多くの無脊椎動物が生息しています。

ゲノム

セイヨウトネリコのゲノムは、イギリスの複数の研究チームによって解読されています。これにより、病気への抵抗性や樹木の進化に関する理解が進んでいます。

病気

セイヨウトネリコは、ash dieback病（和名未定）という病気に大きな被害を受けています。これはHymenoscyphus pseudoalbidusという菌の感染によって引き起こされ、ヨーロッパのトネリコ属の樹木に広範囲な枯死をもたらしています。しかし、この病気に対する抵抗性を持つ個体も発見されています。

また、アメリカではアオナガタマムシによる被害も深刻で、セイヨウトネリコを含む欧米産のトネリコ類が枯死しています。

利用

セイヨウトネリコは、その回復力と成長の早さから、小規模な林業者にとって重要な資源です。約200年間利用され、田舎では多岐にわたる用途で利用されてきました。第二次世界大戦までは10年周期で伐採され、燃料、建物の柱、木工品として使われていました。

木材はクリーム色からライトブラウンで、心材は暗褐色をしています。硬く丈夫で耐久性があり、曲げやすく、衝撃に強い性質を持ちます。そのため、弓やハンマーの柄、テニスラケット、ホッケースティックなどに利用されてきました。また、初期の航空機のフレームにも使われていました。

セイヨウトネリコは生木でもよく燃えるため、薪としても利用されます。生垣としても使われ、地方によっては頭の高さまで刈り込まれたトネリコが見られます。また、弾力性があるため、杖や、カニ、ロブスターを捕獲するための罠の材料としても使われています。明るい色の木材は、モダンな家具の材料としても人気があります。

神話

アイスランドの著述家スノッリ・ストゥルルソンは、著書「スノッリのエッダ」の中で、北欧神話に登場する世界の軸であり支柱である巨大なトネリコ「ユグドラシル」について記述しています。

栽培品種

以下のような多くの栽培品種があります。

'Aurea'
'Aurea Pendula' (枝垂れる)
'Autumn Blaze'
'Autumn Purple'
'Crispa'
'Diversifolia'
'Erosa'
'Jaspidea'
'Monophylla'
'Nana'
'Pendula' (枝垂れる)
'Skyline'

脚注

関連項目

トネリコ
トネリコ属
広葉樹の重要病害
ニレ立枯病
クリ胴枯病
ナラ枯れ
* Sudden oak death病

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