セイヨウナナカマド

セイヨウナナカマド（西洋七竈）

セイヨウナナカマド（学名: Sorbus aucuparia）は、バラ科ナナカマド属に属する落葉低木で、ヨーロッパ原産です。その生育範囲は広く、ヨーロッパの中部から西部、そして北極圏にまで及びます。地中海地方では、山地の高所でのみ見られます。

名称の由来

英名であるRowanは、北欧の言葉で魔除けを意味するRunaに由来します。また、Mountain Ashという英名は、セイヨウナナカマドの葉がトネリコ属（ash tree）の葉に似ていることに由来しますが、両者は近縁ではありません。

ドイツ語名のEberescheは、一見すると「雄豚の灰」を意味するように見えますが、実際にはケルト語の「イチイ」を意味するeburosとの関連が指摘されています。また、Aberesche（偽トネリコ）という解釈もあり、トネリコに似ているものの別種であることを示唆しています。Vogelbeerbaumという別名もあり、これは「鳥の液果の木」を意味し、かつて小鳥を捕獲するための餌として果実が利用されたことに由来します。

学名の種小名aucupariaは、ラテン語の野鳥狩りを意味するaucupatioに由来します。

分布

セイヨウナナカマドは、中央ヨーロッパから北ヨーロッパ、そしてシベリアにかけて広く分布しています。グレートブリテン島のスコットランド高地にも分布が見られます。

形態

セイヨウナナカマドは落葉性の中低木で、通常は8〜10メートル程に成長しますが、まれに20メートルを超える個体も存在します。樹皮は滑らかで、若木は銀灰色をしています。樹齢を重ねると灰褐色になり、ひび割れが生じることもあります。葉は羽状複葉で、9〜19枚の小葉から構成されます。小葉の縁は粗い鋸歯状になっています。

花は、枝の末端に直径8〜15センチメートルの散房花序を形成し、250個ほどの小さな花が集まって咲きます。花は乳白色で、強い芳香があり、昆虫を引き寄せます。果実はナシ状果で、直径6〜9ミリメートルで、最初は緑色ですが、成熟すると鮮やかな赤色に変わります。果実には最大8つの種子が含まれています。

亜種

複数の亜種が確認されており、それぞれ分布域や形態に若干の違いが見られます。

Sorbus aucuparia subsp. aucuparia: ヨーロッパの温暖な地域に分布し、新芽や葉に毛が生えています。
Sorbus aucuparia subsp. glabrata: アイスランドやスコットランド北部に分布し、新芽や葉の毛が少ないのが特徴です。

生態

セイヨウナナカマドは寒さに強く、山地の標高の高い場所でも生育可能です。イギリスでは標高1,000メートル、フランスでは2,000メートルの高地にも分布しています。また、弱酸性土壌や崖の割れ目など、様々な土壌環境に適応します。鳥類にとって重要な食料源であり、種子散布にも貢献しています。葉や皮は、鹿などの動物や昆虫の幼虫に食べられることがあります。

利用

セイヨウナナカマドは、街路樹や庭の鑑賞樹として広く栽培されており、様々な栽培品種が存在します。果実は独特の風味があり、ジャムやゼリーの材料として利用されます。また、ソルビン酸という防腐剤成分が含まれており、食品の保存に役立ちます。

文化

西洋では、セイヨウナナカマドは魔力を持つと信じられており、呪術から身を守る力があるとされてきました。北欧神話では、雷神トールが川を渡る際に助けられたという逸話があります。ケルト人にとっても重要な木であり、魔除けとして聖所に植えられました。スコットランドでは、魔術的なものを避けるお守りとして神聖視されていました。

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