セイ・ユー、セイ・ミー (アルバム)

『セイ・ユー、セイ・ミー』（Dancing on the Ceiling）

『セイ・ユー、セイ・ミー』は、アメリカを代表するR&Bシンガー、ライオネル・リッチーが1986年にリリースした、彼のソロキャリアにおける3枚目のスタジオアルバムです。原題はアルバムのタイトル曲と同じく『Dancing on the Ceiling』となっています。本作は、オリジナルLP盤が8曲構成であったのに対し、ほぼ同時期に市場に出たCD盤には「ナイト・トレイン」がボーナストラックとして追加され、全9曲が収録されている点が挙げられます。

背景

本作の企画段階では、前年末に公開された映画『ホワイトナイツ/白夜』の主題歌として大成功を収め、全米シングルチャートで首位を獲得した大ヒット曲「セイ・ユー、セイ・ミー」を冠する案が存在しました。当時、この楽曲はアルバムに先駆けて大きな注目を集めていたため、アルバムタイトルとするのは自然な流れでした。しかし、アルバム制作の進行に遅れが生じた結果、次にシングルカットされた楽曲「ダンシング・オン・ザ・シーリング」が最終的にアルバムのタイトルに採用されることになったという経緯があります。

音楽性と特徴

本作には、ライオネル・リッチーならではのメロディアスなバラードからアップテンポな楽曲まで、幅広いスタイルが収められています。収録曲の中には、実験的な試みが見られるものもあります。例えば、「セラ」ではレゲエ特有のリズムが大胆に導入されており、R&Bの枠を超えたサウンドを展開しています。「ディープ・リヴァー・ウーマン」では、カントリーミュージックの要素が取り入れられ、実際にカントリー界の人気グループ、アラバマのメンバー3人がバックグラウンド・ボーカルとして参加しています。また、「トゥナイト・ウィル・ビー・オールライト」には、ロック界の巨匠エリック・クラプトンがギター・ソロで参加しており、楽曲に深みと彩りを加えています。これらの楽曲に見られるように、リッチーはこのアルバムで多様なジャンルへの接近を試み、豪華なゲストミュージシャンとのコラボレーションを実現しています。

反響と商業的成功

商業的な側面においても輝かしい実績を残しています。自身の母国アメリカの主要アルバムチャート、Billboard 200では、1983年の前作『オール・ナイト・ロング』に引き続き、通算2度目となるNo.1の栄誉に輝きました。発売から約1年半後の1987年5月の時点では、国内だけで400万枚を突破するセールスを記録し、アメリカレコード協会（RIAA）から4×プラチナディスクの認定を受けています。さらに、国際的にも成功を収めており、特にノルウェーのアルバムチャートでは、10週連続でトップ20にランクインし、そのうち3週にわたって首位を維持しました。

批評家の声

本作に対する批評家たちの反応は分かれています。1986年9月22日付の『ピープル』誌のレビューでは、「親しみやすさはあるものの、熱狂的に愛されるほどではない」と、やや控えめな評価を下しました。対照的に、音楽評論家のスティーヴン・トーマス・アールワインは、音楽データベースサイトAllMusicにおいて5点満点中4点を与え、より肯定的な見解を示しています。彼は、「確かに、初期のセルフタイトル作や『オール・ナイト・ロング』のような特大ヒット曲は本作には見られないかもしれない。しかし、個々の収録曲の質の高さは一貫しており、それまでのアルバムに散見されたような、やや不出来な『穴埋め』的な楽曲が少ない点も事実だ」と述べ、アルバム全体の完成度を評価しています。

収録曲

特記なき楽曲は作詞・作曲ともライオネル・リッチーによる。

1. ダンシング・オン・ザ・シーリング - "Dancing on the Ceiling" – 4:35
作詞：ライオネル・リッチー／作曲：ライオネル・リッチー、カルロス・リオス、マイケル・フレンチック
2. セラ - "Se La" – 5:56
作詞：ライオネル・リッチー／作曲：ライオネル・リッチー、グレッグ・フィリンゲインズ
3. バレリーナ・ガール - "Ballerina Girl" – 3:39
4. ドント・ストップ - "Don't Stop" – 8:09
作詞：ライオネル・リッチー／作曲：ライオネル・リッチー、ジョン・バーンズ
5. ディープ・リヴァー・ウーマン - "Deep River Woman" – 4:38
6. 愛に抱かれて - "Love Will Conquer All" – 5:44
作詞：ライオネル・リッチー、シンシア・ワイル／作曲：ライオネル・リッチー、グレッグ・フィリンゲインズ
7. トゥナイト・ウィル・ビー・オールライト - "Tonight Will Be Alright" – 5:09
8. セイ・ユー、セイ・ミー - "Say You, Say Me" – 4:05
9. ナイト・トレイン - "Night Train (Smooth Alligator)" – 4:58 (CDボーナストラック)
作詞：ジェフリー・コーエン、ナラダ・マイケル・ウォルデン／作曲：プレストン・グラス、ウォルター・アファナシェフ、ナラダ・マイケル・ウォルデン

参加ミュージシャン（抜粋）

ライオネル・リッチー - リード・ボーカル、バックグラウンド・ボーカル、キーボード 他
ジェームス・アンソニー・カーマイケル - ストリングス・アレンジ、ホーン・アレンジ、リズム・アレンジ
グレッグ・フィリンゲインズ - キーボード、ドラムマシン、シンセサイザー 他
ジョン・バーンズ - ピアノ、シンクラヴィア、シンセサイザー
カルロス・リオス - ギター・ソロ、ギター、シンセサイザー、アコースティック・ギター
ティム・メイ - ギター
エリック・クラプトン - ギター・ソロ (on "Tonight Will Be Alright")
スティーヴ・ルカサー - ギター
ネイザン・イースト - ベース
ジョン・ロビンソン - ドラムス
ポール・レイム - ドラムス、ドラムマシン
パウリーニョ・ダ・コスタ - パーカッション
シーラ・E - パーカッション
アラバマ（ランディ・オーウェン、テディ・ジェントリー、ジェフ・クック） - バックグラウンド・ボーカル (on "Deep River Woman")
リチャード・マークス - バックグラウンド・ボーカル
* ナラダ・マイケル・ウォルデン - ドラムス、プログラミング、アレンジ

『セイ・ユー、セイ・ミー』は、ライオネル・リッチーのポップスターとしての地位を確固たるものにした時代の作品であり、R&Bを基盤としながらも、当時の音楽シーンにおける多様なサウンドを取り入れようとした意欲作と言えるでしょう。大ヒットシングルを擁しつつ、アルバム全体として一定の完成度を持つ作品として記憶されています。

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