セガAIコンピュータ

セガAIコンピュータ：時代を先駆けた知育コンピュータ

セガAIコンピュータは、1986年にセガ・エンタープライゼス（後のセガ）が発売した、幼児・児童向けの家庭用知育コンピュータです。当時、ホビーパソコンとは異なり、3歳から8歳までの子供たちを対象としたコンピュータ支援教育（CAI）に特化していました。最大の特徴は、人工知能言語Prologを内蔵し、「人工知能（AI）搭載」をセールスポイントとしていた点です。

開発の背景と概要

セガAIコンピュータは、丸紅が販売するソフトウェア知育教材「くもん わんだぁすくーる」とセットで販売されました。開発はセガ・エンタープライゼスとCSK総合研究所が共同で行い、約10億円の開発費を要したとされています。教材は公文教育研究会が監修しました。

当初の一括販売価格は168,990円で、内訳は教材（全18巻）が81,490円、本体が87,500円でした。本体価格は当時のパソコンとしてはローエンドに位置づけられます。

当時のセガで技術開発部門を担当していた佐藤秀樹（元セガ代表取締役社長）は、セガAIコンピュータのプロジェクトを「大失敗」と述懐していますが、この経験が後のヒット商品であるキッズコンピュータ・ピコに活かされたと語っています。

ハードウェアの特徴

セガAIコンピュータは、当時の水準から見ても先進的なハードウェア構成を持っていました。

CPU: NEC V20（16bitマイクロプロセッサー V30のデータバス8bit版）
ROM: 128KB（SEGA PROLOG OS 内蔵）
RAM: 128KB
VDP: ヤマハ V9938
VRAM: 64KB
画面解像度: 256×212ドット
映像出力: RGB出力、コンポジット出力、RF出力
サウンド: SN76489（セガの家庭用ゲーム機にも搭載された音源LSI）。オプションでFM音源LSIと増設メモリーを内蔵する「AIサウンドボックス」も存在しました。

入出力装置としては、JISキーボード、感圧式のタッチタブレット（B5サイズ）、カーソルコントローラ、マイク入力端子、カセットドライブを搭載していました。特にタッチタブレットは、交換可能な「パターンシート」を敷くことで様々な入力に対応できる点が特徴的でした。このシートの概念は、後のキッズコンピュータ・ピコにも引き継がれています。

ソフトウェアの特徴

セガAIコンピュータの基本ソフトウェアは、「SEGA PROLOG」インタープリターでした。アプリケーションは「コースウェア」と呼ばれ、幼児教育だけでなく、ホームコンピューターとしての様々な発展がコンセプトとして存在していました。

SEGA PROLOG

SEGA PROLOGは、CSK総合研究所が開発したPrologインタープリターです。内蔵ROMの容量が限られていたため、基本的な40のコマンドに限定された仕様となっていました。

Prologは、1970年代に考案された非手続き型の論理プログラミング言語であり、当時、人工知能の研究分野で注目されていました。セガAIコンピュータは、第五世代コンピュータ計画との直接的な関連はありませんが、Prologを採用することで、児童の学習理解度の把握や、入力された文章の推測など、柔軟な対応が可能であるとされていました。

コースウェア

教材アプリケーションは「コースウェア」と呼ばれ、ICカードで供給されました。パンフレットには、幼児から高校生までの教育支援、健康管理プログラム、ワープロなど、幅広いアプリケーションが想定されていましたが、実際に供給されたのは幼児向けの知育プログラム「わんだぁすくーる」シリーズのみでした。

以下は、販売開始当初のパンフレットに記載された「くもん わんだぁすくーる（全18巻）」のタイトル一覧です。

アリス・ワールド
ロビンソン・ランド
エジソン・ラボ
シンデレラ・ラビリンス
ガリバー・ポケット
モーツァルト・アカデミー
アンデルセン・ドリーム
アラビアン・ナイト
リンカーン・フリーダム
グリム・ハウス
ホームズ・ミステリー
アンネ・ダイアリー
コロンブス・エッグ
宝島・パイレーツ
スペース・ファンタジー
サファリ・ファンタジー
オーシャン・ファンタジー
マザーズブック

まとめ

セガAIコンピュータは、時代を先取りしたコンセプトと先進的なハードウェアを備えていましたが、商業的には成功しませんでした。しかし、その開発経験は、後のキッズコンピュータ・ピコの成功に大きく貢献しました。セガAIコンピュータは、家庭用知育コンピュータの歴史において、重要な役割を果たした一台と言えるでしょう。

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