セネト

セネト：古代エジプト最古のボードゲーム

セネト(Senet)は、紀元前3500年頃、王朝誕生以前のエジプトに起源を持つ、世界最古のボードゲームの一つと考えられています。エジプト語で「通過ゲーム」を意味するこのゲームは、単なる娯楽を超え、古代エジプト人の信仰や死生観と深く結びついていました。

歴史：悠久の時を超えて

セネトの起源は、王朝成立以前のエジプトにまで遡ります。紀元前3500年頃とされる最古の遺物は、その歴史の長さと、世界最古のボードゲームである可能性を示唆しています。エジプト第1王朝（紀元前3100年頃）の墓からも出土しており、古代エジプト社会において、長きにわたって親しまれていたことがわかります。

さらに、セネトは墓の壁画にも描かれています。紀元前3300年頃～紀元前2700年頃のMerkneraの墓や、エジプト第3王朝のHesy-Ra（紀元前2686年頃～紀元前2613年）、Rashepes（紀元前2500年頃）の墓など、様々な時代の墓からセネトの描写が見つかっています。これらの発見は、セネトがエジプト社会の上層階級にも広く愛されていたことを示しています。

エジプト新王国時代（紀元前1567年～紀元前1085年）になると、セネトは死者のための護符としての役割も担うようになりました。ゲームの運の要素と、エジプト人の決定論的な世界観が結びつき、ゲームで成功した者は、ラー、トート、オシリスといった偉大な神々によって来世でも守られると信じられていたのです。そのため、セネトのゲーム盤や駒は、死者の副葬品として墓に納められることが多く、死者の書にも言及されています。

セネトはエジプトのみならず、レバント、キプロス、クレタなどにも伝わりましたが、それらの地域では宗教的な意味合いは薄れていったようです。

遊び方：神々の加護を賭けて

セネトのゲーム盤は、3列×10行の30個のマス目から構成されています。2人でプレイし、それぞれ少なくとも5個以上の駒を持ち、交互に駒を進めていきます。駒の移動は、投げ棒や指関節の骨などを投げて決めます。

しかし、セネトの正確なルールは、現在も歴史学者たちの間で議論されています。ティモシー・ケンダルとR・C・ベルという2人の研究者は、それぞれ異なるルールを提唱しており、現在販売されているセネトゲームにも、これらの異なるルールを採用したものがあります。現代の私たちは、古代エジプトの人々がどのようにセネトを楽しんでいたのか、完全に理解することはできないのかもしれません。それでも、その謎めいたルールこそが、セネトの魅力の一つと言えるでしょう。

セネトと他のゲーム

セネトは、古代世界の他のボードゲームとも関連付けられることがあります。例えば、古代エジプトの別のゲームであるメヘン、紀元前2600年頃のウル王朝のゲーム、中東のタブ、インドのパチーシ、メソアメリカのゲームであるパトリなど、様々なゲームと共通点や類似点が見られます。これらのゲームとの比較研究を通じて、セネトの起源や発展の歴史をより深く理解することができます。

現代へのレガシー

セネトは、現代においてもその魅力を失っていません。多くの博物館でセネトのレプリカが展示され、オンラインゲームとしても楽しむことができます。古代エジプト文明への関心の高まりとともに、セネトは再び人々の注目を集め、その悠久の歴史と謎めいた魅力を現代の人々に伝えています。古代エジプトの人々がプレイしたゲームを、現代の私たちが体験できることは、まさに時を超えた繋がりと言えるでしょう。

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