セマウル号

セマウル号：韓国を駆け抜けた優等列車の歴史

セマウル号は、韓国鉄道公社（KORAIL）が運行していた列車種別の一つで、1970年代から2000年代初頭にかけて韓国を代表する優等列車として親しまれてきました。「セマウル」という名称は、「新しい村」を意味し、当時の朴正煕政権が推進したセマウル運動に由来します。

誕生と変遷

セマウル号の原型は、1969年に登場した超特急「観光号」です。1974年に首都圏電鉄（広域電鉄）が開業した際、現在の名称である「セマウル号」に改称されました。しかし、セマウル運動を推進した朴正煕大統領が暗殺された影響で、1980年から1984年までの間は名称が廃止され、単に「超特急」として運行されていました。

韓国高速鉄道（KTX）が開業する以前は、韓国における最優等列車であり、日本のグリーン車に相当する「特室」と、普通車に相当する「一般室」の座席が設けられていました。かつてはソウルと地方都市を結ぶ主要路線を網羅しており、特に京釜線では1日に18往復が運行され、最速列車はソウル - 釜山間を4時間10分で結び、停車駅も大田と東大邱のみという速達性でした。

2004年にKTXが開業すると、最優等列車としての地位を譲り、運行本数の見直しや停車駅の増加など、大幅な改革が行われました。

車両の種類

セマウル号には、ディーゼル機関車牽引による客車と、プッシュ・プル方式の気動車（PP動車）の2種類がありました。PP動車は1987年から2013年1月まで運行されていました。両者は外観や内装はほぼ同一でしたが、PP動車の先頭車と最後尾車はエンジンがあるため、客室内で振動や騒音が大きく、長時間の乗車には不向きでした。

座席は全席指定であり、2000年頃に一時的に自由席が設けられましたが、短期間で廃止されました。その後、2011年1月からは平日に限り、5号車1両が自由席として運用されていました。

塗装

セマウル号の塗装は、時代によって変化しました。初期の旧型客車や9201系動車は、白地に窓周りが青色の帯で装飾されていました。ステンレス客車は青色の帯に白色のアクセントが入ったデザインでした。PP動車は、当初は先頭車の運転席からボンネットにかけてが赤色で、その他はステンレス客車と同様のデザインでしたが、後に緑色と黄色の帯に塗り替えられました。韓国鉄道庁が公社化され、KORAILに移行してからは、黄色、白色、紺色の帯が採用されました。

ITX-セマウルへの移行

2014年5月12日、セマウル号の後継として、210000系電車を使用したITX-セマウルが運行を開始しました。同年6月30日には、非電化区間である中央線、東海南部線、長項線を除き、全てのセマウル号がITX-セマウルに置き換えられました。その後、中央線のセマウル号も2014年11月1日に運行区間が短縮され、ITX-セマウルに置き換えられました。東海南部線での運行も2015年4月1日をもって終了しました。

現在の運行

現在、セマウル号は長項線（龍山 - 益山）でのみ運行されています。2018年4月30日には、老朽化した従来の客車での運行を終了し、翌5月1日からはモノクラス化されたムグンファ号客車をセマウル号仕様に改造した車両（リミット車タイプをITX-セマウルと同一塗装に塗り替えたもの。ただし電源車は以前からのものをそのまま流用）に置き換えられています。

2021年1月4日、文在寅大統領は、全てのディーゼル機関車牽引による旅客列車を2029年までにKTX-イウム（150000系）に置き換える方針を発表しました。これにより、全列車がディーゼル機関車牽引であるセマウル号は、2029年までにその姿を消す見込みです。

運行路線と停車駅

現在のセマウル号は、以下の路線で運行されています。

長項線（京釜線直通）：龍山 - 天安経由 - 益山間（1日5往復）

停車駅：

龍山駅 - 永登浦駅 - 水原駅 - （平沢駅） - 天安駅 - 牙山駅 - 温陽温泉駅 - （新礼院駅） - 礼山駅 - （挿橋駅） - 洪城駅 - 広川駅 - 大川駅 - 熊川駅 - 舒川駅 - 長項駅 - 群山駅 - 益山駅

※（ ）は一部列車のみ停車

セマウル号の気動車

セマウル号には、以下の気動車がありました。

9201系ディーゼル動車（DEC）： 1980年からソウル～全州間で運行されていましたが、数年で廃止され、その後ムグンファ号に転用されました。
* DHC（PP動車）： 1987年から2013年まで運行されていたプッシュ・プル気動車です。先頭車にエンジンを搭載し、中間車は付随車という構成でした。2013年1月5日をもって運行を終了し、先頭車は廃車、中間車は客車として使用されましたが、2018年4月30日をもって運行を終了しました。

慶福号

DHCの車体を流用した、大統領や国賓を輸送するVIP専用車両です。4両編成2本が存在しますが、保安上の理由から内装などの詳細は非公開となっています。

セマウル号の客車

かつて観光号で使用されていた客車は、日本の客室設備を参考にしていたため、新幹線0系車両に似た外観でした。ステンレス製車両の導入により、旧型客車は全てムグンファ号に格下げされました。

現在の客車は、1986年から1991年にかけて製造されたステンレス製で、高速走行に対応した構造となっています。PP動車の中間車とほぼ同じ外観・内装です。

2018年の長項線セマウル号置き換えに伴い、ムグンファ号及びITX-セマウルに転用される一部の電源車を除き、ほとんどの車両が廃車される予定です。

セマウル号は、韓国の鉄道史において重要な役割を果たした列車であり、多くの人々に愛されました。その功績は、今後も語り継がれることでしょう。

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