セルゲイ・キリエンコ
セルゲイ・ウラジレノヴィチ・キリエンコは、1962年7月26日に旧ソ連のグルジア・ソビエト社会主義共和国（現在のジョージア）に生まれました。ロシア連邦の政治家であり、有能な実務家「テクノクラート」として知られています。現在はロシア連邦大統領府の第1副長官という要職にあり、ウラジーミル・プーチン大統領からの厚い信頼を得ていることから、連邦内の州知事の人選にも影響力を持つ「陰の実力者」とも評されています。
キリエンコは、1984年にゴーリキー鉄道運輸工科大学を卒業後、2年間の兵役を経て、造船工場で職長やソ連共産党青年組織であるコムソモールの書記を務めました。その後、ゴーリキー州（現在のニジニ・ノヴゴロド州）のコムソモール第一書記に昇進し、州の人民代議員も務めるなど、若くして頭角を現します。ソ連崩壊後の1993年には、ロシア政府付属国民経済アカデミーで市場経済下の経営を学び、「最高等級マネージャー」の資格を取得しました。
1991年からは、ゴーリキー州で株式会社AMKの社長を務めたのを皮切りに、銀行や石油会社の経営に携わります。特に1994年から1997年にかけてガランティア銀行の頭取を、1996年からは石油会社ノリス・オイルの社長を務めました。この実業家時代に、当時のニジニ・ノヴゴロド州知事だったボリス・ネムツォフとの関係を築きました。
ネムツォフがエリツィン政権の第一副首相に就任すると、キリエンコは彼の推挙により1997年5月に燃料エネルギー省第一次官に任命され、ガスプロム関連の業務を担当しました。同年11月にはネムツォフの後任として燃料エネルギー大臣に昇格します。
そして1998年3月、エリツィン大統領はヴィクトル・チェルノムイルジン首相を突然解任し、35歳という異例の若さだったキリエンコを首相代行に指名しました。下院での正式な承認には曲折がありました。議会を牛耳っていたロシア連邦共産党の反対により、最初の2回の承認投票は否決されましたが、3回目の投票でようやく承認を得て、正式に首相に就任しました。若き首相として、キリエンコ政権は巨大企業ガスプロムへの徴税強化や経済改革に着手しましたが、その経験不足から政治的な力量は限定的でした。首相在任中の1998年7月には、エリツィンの意向を受けてウラジーミル・プーチンを連邦保安庁（FSB）長官に任命しています。しかし、同年8月にはルーブルの切り下げと対外債務のデフォルト（債務不履行）を発表し、ロシア通貨危機を招きました。この危機を収拾できず、わずか数ヶ月で首相の座を追われることとなりました。
首相を辞任した後、キリエンコは1999年に政治運動「新しい勢力」を立ち上げ、後に他の右派リベラル勢力と合流して政治ブロック「右派勢力同盟」を結成しました。同年12月の下院選挙では右派勢力同盟が一定の議席を獲得し、キリエンコ自身も下院議員に当選しました。ただし、同時に立候補したモスクワ市長選挙では現職のルシコフ市長に敗れています。
2000年5月、エリツィン大統領の辞任に伴い大統領代行を務めていたウラジーミル・プーチンが正式に大統領に就任すると、キリエンコのキャリアは新たな局面を迎えます。プーチン大統領は、彼を新たに設置された沿ヴォルガ連邦管区の全権代表に任命しました。このポストで約5年半、広大な地域を統括する経験を積みました。
2005年11月からはロシア原子力庁長官に就任。この時期には、元FSB職員アレクサンドル・リトヴィネンコ変死事件で検出された放射性物質ポロニウムについて、ロシアからの流出を否定する発言を行っています。2007年12月、ロシア原子力庁が国営原子力企業「ロスアトム」に改組されると、キリエンコはその代表取締役社長に就任し、約10年間にわたりロシアの原子力産業を率いました。
2016年10月、キリエンコはロスアトム社長を退任し、新たに設けられた大統領府第1副長官のポストに就きました。この役職はプーチン政権の中枢であり、彼は国内政治、特に地方行政や選挙に関する実務を取り仕切るようになります。
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻以降、キリエンコは特にウクライナ東部、ロシアが一方的に併合を宣言したドンバス地方での活動を強化しました。現地の親ロシア派勢力との連携を調整するほか、ロシアの占領統治下でのスピン報道や世論操作、住民投票の実施などに深く関与しました。その主導的な役割から、一部では「ドンバスの総督」とも称されています。
かつてはリベラル派と目され、実業家・テクノクラートとしてキャリアを築いたキリエンコは、プーチン政権下で要職を歴任し、今やロシアの政治システムにおいて舞台裏から大きな影響力を行使する人物となっています。私生活では剣道をたしなむ一面も持ち合わせています。
初期経歴と実業界での活動
キリエンコは、1984年にゴーリキー鉄道運輸工科大学を卒業後、2年間の兵役を経て、造船工場で職長やソ連共産党青年組織であるコムソモールの書記を務めました。その後、ゴーリキー州（現在のニジニ・ノヴゴロド州）のコムソモール第一書記に昇進し、州の人民代議員も務めるなど、若くして頭角を現します。ソ連崩壊後の1993年には、ロシア政府付属国民経済アカデミーで市場経済下の経営を学び、「最高等級マネージャー」の資格を取得しました。
1991年からは、ゴーリキー州で株式会社AMKの社長を務めたのを皮切りに、銀行や石油会社の経営に携わります。特に1994年から1997年にかけてガランティア銀行の頭取を、1996年からは石油会社ノリス・オイルの社長を務めました。この実業家時代に、当時のニジニ・ノヴゴロド州知事だったボリス・ネムツォフとの関係を築きました。
エリツィン政権での飛躍と挫折
ネムツォフがエリツィン政権の第一副首相に就任すると、キリエンコは彼の推挙により1997年5月に燃料エネルギー省第一次官に任命され、ガスプロム関連の業務を担当しました。同年11月にはネムツォフの後任として燃料エネルギー大臣に昇格します。
そして1998年3月、エリツィン大統領はヴィクトル・チェルノムイルジン首相を突然解任し、35歳という異例の若さだったキリエンコを首相代行に指名しました。下院での正式な承認には曲折がありました。議会を牛耳っていたロシア連邦共産党の反対により、最初の2回の承認投票は否決されましたが、3回目の投票でようやく承認を得て、正式に首相に就任しました。若き首相として、キリエンコ政権は巨大企業ガスプロムへの徴税強化や経済改革に着手しましたが、その経験不足から政治的な力量は限定的でした。首相在任中の1998年7月には、エリツィンの意向を受けてウラジーミル・プーチンを連邦保安庁（FSB）長官に任命しています。しかし、同年8月にはルーブルの切り下げと対外債務のデフォルト（債務不履行）を発表し、ロシア通貨危機を招きました。この危機を収拾できず、わずか数ヶ月で首相の座を追われることとなりました。
首相辞任後からプーチン政権へ
首相を辞任した後、キリエンコは1999年に政治運動「新しい勢力」を立ち上げ、後に他の右派リベラル勢力と合流して政治ブロック「右派勢力同盟」を結成しました。同年12月の下院選挙では右派勢力同盟が一定の議席を獲得し、キリエンコ自身も下院議員に当選しました。ただし、同時に立候補したモスクワ市長選挙では現職のルシコフ市長に敗れています。
2000年5月、エリツィン大統領の辞任に伴い大統領代行を務めていたウラジーミル・プーチンが正式に大統領に就任すると、キリエンコのキャリアは新たな局面を迎えます。プーチン大統領は、彼を新たに設置された沿ヴォルガ連邦管区の全権代表に任命しました。このポストで約5年半、広大な地域を統括する経験を積みました。
2005年11月からはロシア原子力庁長官に就任。この時期には、元FSB職員アレクサンドル・リトヴィネンコ変死事件で検出された放射性物質ポロニウムについて、ロシアからの流出を否定する発言を行っています。2007年12月、ロシア原子力庁が国営原子力企業「ロスアトム」に改組されると、キリエンコはその代表取締役社長に就任し、約10年間にわたりロシアの原子力産業を率いました。
大統領府副長官とウクライナ侵攻
2016年10月、キリエンコはロスアトム社長を退任し、新たに設けられた大統領府第1副長官のポストに就きました。この役職はプーチン政権の中枢であり、彼は国内政治、特に地方行政や選挙に関する実務を取り仕切るようになります。
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻以降、キリエンコは特にウクライナ東部、ロシアが一方的に併合を宣言したドンバス地方での活動を強化しました。現地の親ロシア派勢力との連携を調整するほか、ロシアの占領統治下でのスピン報道や世論操作、住民投票の実施などに深く関与しました。その主導的な役割から、一部では「ドンバスの総督」とも称されています。
かつてはリベラル派と目され、実業家・テクノクラートとしてキャリアを築いたキリエンコは、プーチン政権下で要職を歴任し、今やロシアの政治システムにおいて舞台裏から大きな影響力を行使する人物となっています。私生活では剣道をたしなむ一面も持ち合わせています。
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