ポロニウム

ポロニウム (Polonium)

ポロニウム（元素記号：Po、原子番号84）は、銀白色の金属であり、第16族に属する元素です。興味深いことに、安定な同位体は存在せず、全ての同位体が放射性を持っています。常温・常圧下では単純立方晶（α-Po）の形状を保ちますが、36 °C以上で立方晶から菱面体晶（β-Po）に変わります。ただし、36℃から54℃の間では両方の構造が共存することがあるのです。ポロニウムの名称は、科学者マリ・キュリーが祖国ポーランドに由来しており、ラテン語で「Polonia」と呼ばれる国名からきています。

特徴と性質

ポロニウムは、テルルやビスマスと同様の化学的特性を持っています。また、昇華性があり水には溶けませんが、塩酸にはゆっくりと溶解します。さらに、硫酸や硝酸に対しては溶けやすく、アルカリに対してはわずかに反応します。ポロニウムは-2, +2, +4, +6 の酸化数を有し、この中で+4 が安定していることが確認されています。

ポロニウムはウラン系列の崩壊過程によって生成され、例えばラドン222が崩壊することでポロニウム218が形作られます。自然界で最も一般的に見られるポロニウム同位体はポロニウム210で、その半減期は138.4日です。

当初、マリ・キュリーが発見した際に、ポロニウムはウランよりも放射能が300倍強いと記述されています。しかし実際には、ポロニウムはウランの100億倍の比放射能を持ち、その微量でも強力な放射能を示します。ポロニウムは昇華性を持つため、取り扱いには厳重な注意が必要です。ただしα線自体は皮膚の角質層を通過化しないため、外部被曝の危険性は少ないとされています。

歴史

ポロニウムは、1869年に周期表を発表したドミトリ・メンデレーエフによって予言され、1898年にピエール・キュリーとマリ・キュリーによってウラン鉱石から発見されました。初期の研究では、ウラン鉱石の中に未知の放射性元素が存在することが示唆され、数トンの鉱石を入手することでポロニウムを分離することに成功しました。同年にはラジウムも発見され、これにより放射能研究が一気に発展しました。

用途

ポロニウムは強力な熱源としても利用されています。1gのポロニウムが放出する熱量は、500 °Cに達することができ、人工衛星用の原子力電池に使われることがあります。また、ポロニウムはα線源及び中性子発生源としても工業用途で使われ、核兵器の起爆装置にも組み込まれることがあります。

暗殺の道具として

近年、ポロニウムは利益追求の道具としても注目されており、2006年に元ロシア連邦保安庁情報部員のアレクサンドル・リトビネンコの不審死事件で体内からポロニウム210が発見され問題視されました。この事件では、該当人物の尿からポロニウムが検出され、体内被曝による多臓器不全を原因とする暗殺容疑が浮上したのです。

同位体

ポロニウムの同位体には、主にポロニウム208（半減期2.898年）、ポロニウム209（半減期102年）、そしてポロニウム210（138.376日）があります。特にポロニウム210は自然界に存在する同位体の中で最も長い半減期を有し、極微量のみが存在しています。ポロニウムは自然界では極めて稀な元素であり、主にウラン鉱石の中に微量含まれているのが実情です。

ポロニウムはその特異な性質から多くの使用用途を持ちますが、その管理と取り扱いには十分な注意が必要です。

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