セントラリア (ペンシルベニア州)

セントラリア

アメリカ合衆国ペンシルベニア州コロンビア郡に位置するセントラリアは、地下で継続する坑内火災によって知られる特異な歴史を持つ町です。かつては活気あふれる炭鉱町として栄えましたが、この火災が原因で住民のほとんどが町を離れ、現在ではゴーストタウンと化しています。

地理

セントラリアは、ペンシルベニア州の主要都市から見て、フィラデルフィアから北西へ約138キロメートル（86マイル）、州都ハリスバーグから北東へ約74キロメートル（46マイル）の地点にあります。アメリカ合衆国統計局によると、町の総面積は約0.6平方キロメートル（0.2平方マイル）で、その全域が陸地であり、水域は存在しません。

歴史

セントラリアとその周辺地域は、良質な無煙炭を産出する豊かな炭田地帯の一部でした。1960年代に至るまで、石炭採掘はこの町の主要産業であり、多くの人々が鉱業に従事していました。

町の歴史は、炭鉱開発が進む前の1841年にジョナサン・ファウストが「ブルズヘッド・タヴァーン」という酒場を開いたことに始まります。その後、1854年には鉱山技師のアレキサンダー・W・レアが主導し、炭鉱と共に計画的な町づくりが行われました。街路が整備され、区画分けされた土地が開発されたのです。当初、この町はセンターヴィルと呼ばれていましたが、1866年に現在のセントラリアに改称されました。

交通網も整備され、1966年まではフィラデルフィア・アンド・レディング鉄道とリーハイ・バレー鉄道の二社が乗り入れており、石炭の輸送や人々の移動を支えました。町の人口は、最盛期の1890年には2,761人を数えましたが、産業構造の変化と共に徐々に減少し、1980年には1,012人となりました。

1860年代から1870年代にかけては、アイルランド系移民の秘密結社とされる「モリー・マグワイアズ」の犯罪活動がこの地域を脅かしました。町の開発者であるアレキサンダー・W・レアもその標的となり、1868年9月17日に暗殺されています。事件に関与した3人の実行犯は逮捕され、有罪判決を受けて処刑されました。

坑内火災の発生と拡大

セントラリアの運命を決定的に変えたのは、1962年5月に発生した地下の坑内火災でした。火災の原因は断定されていませんが、町のゴミ集積場でごみを焼却した際、地下に露出していた炭層に火が引火したという説が最も有力視されています。一度地下の石炭層に燃え移った火は、複雑に入り組んだ坑道を通って広範囲に拡大していきました。

この地下火災は、地表にも深刻な影響を及ぼしました。地面は場所によって70℃から80℃という高温になり、地下水は蒸発して煙や一酸化炭素などの有毒ガスと共に地表から噴出するようになりました。また、地下水の減少に伴う地盤沈下も発生し、地面に亀裂が生じるようになりました。有毒ガスの濃度上昇による健康被害のリスクも高まり、住民の生活は極めて困難な状況に追い込まれていったのです。

火災の消火には莫大な費用と高度な技術が必要であり、政府による何度かの試みも成功しませんでした。最終的に連邦政府は消火を断念し、セントラリアの住民に対して立ち退きを勧告、土地の買い上げと移転補償を行いました。これにより、多くの住民が故郷を離れることとなり、町は急速に無人化が進みました。郵便公社も2002年にセントラリアの郵便番号（ZIPコード）を抹消し、公式には「存在しない町」として扱われるようになりました。

現在のセントラリア

かつて建物が立ち並んでいたセントラリアの町並みは、火災による影響や建物の解体によってほとんど失われ、自然がかつての場所を取り戻しつつあります。しかし、今もなお地表からは煙や有毒ガスが噴出し続けており、地下で火災が続いていることを示しています。

特に、町の南側を通るペンシルベニア州道61号線の一部区間は、地下火災によってアスファルトが熱せられ、大きな亀裂や陥没が発生したため使用不能となりました。このため、州道のルートは迂回路に変更され、損傷が著しい旧道は封鎖されています。封鎖された旧道は、訪れる観光客によって大量の落書きが描かれ、異様なアートスポットと化しています。

地下で燃え続ける火は、雨が降っても消える気配はなく、いつ鎮火するのかは全く予測できていません。専門家は、自然鎮火には数百年、あるいはそれ以上の時間がかかると推測しています。

残された人々

政府の立ち退き勧告と町の買い上げが進められた後も、少数の住民がセントラリアに留まることを選択しました。人口は激減しましたが、完全な無人地帯とはなっていません。2000年の国勢調査時点では21人（10世帯）、2010年の調査では10人が居住しており、2013年の推計では7人にまで減少しています。2000年当時の人口構成を見ると、平均年齢は62歳と高齢化が進んでいました。

タイムカプセル

1966年、当時の住民によって町の歴史を後世に伝えるため、退役軍人記念碑の隣にタイムカプセルが埋設されました。当初は50年後の2016年に開封される予定でしたが、実際にはそれより2年早い2014年10月に掘り出されました。

他の長期石炭火災の例

地下の石炭層が長期間燃え続ける現象はセントラリアに限ったものではありません。過去には、中国のリュウファンゴウ炭鉱のように130年間燃え続けた例や、現在もトルクメニスタンの「地獄の門」、オーストラリアの「燃える山」、ドイツのブレンネンダー・ベルク、日本の北海道夕張市にある旧北炭夕張炭鉱の一部などで同様の地下火災が続いています。佐賀県多久市でもボタ山火災が長期化し、近年ようやく終息が宣言された例があります。

関連事項

セントラリアの特異な状況は、様々な形で取り上げられています。特に、ホラーゲームシリーズ『サイレントヒル』に登場する荒廃した街は、セントラリアがそのモデルの一つになっていると言われています。また、日本のテレビ番組『奇跡体験!アンビリバボー』でも、2007年5月10日の放送でセントラリアの坑内火災が特集されました。

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