セント・スティーブンス・グリーン

アイルランドの首都ダブリンの中心部、ダブリン2区に位置するセント・スティーブンス・グリーン（愛: Faiche Stiabhna、英: St Stephen's Green）は、約8.9ヘクタール（22エーカー）の面積を誇る広大な公園です。親しみを込めて「スティーブンス・グリーン」とも呼ばれるこの場所は、ダブリン市内のジョージ王朝時代の庭園広場の中でも最大規模であり、緑豊かなオアシスとして市民や観光客に愛されています。公園はダブリン有数のショッピングエリアであるグラフトン・ストリートに近接し、周囲を囲む通り沿いには多くの公共機関のオフィスが集まっています。また、ダブリンの路面電車「ルアス」の停留所も設けられており、交通至便な立地です。かつては市内の主要な交通動脈の一部でしたが、2004年のルアス建設に伴う交通規制変更により、周囲の交通量は緩和されました。公園は、セント・スティーブンス・グリーン・ノース、サウス、イースト、ウェストと呼ばれる四辺の道路に囲まれた、ほぼ長方形の形状をしています。

セント・スティーブンス・グリーンの歴史は、この地が湿地帯であった17世紀から始まります。1663年以前は、ここはダブリンの端にある公共の湿地帯で、主に放牧に利用されていました。しかし、当時の市議会は収入確保のため、中心部を囲い込み緑地とし、周囲の土地を住宅地として売却することを決定します。1664年には塀が設置され、緑地は周辺の土地所有者である住民専用のプライベートな空間となりました。

18世紀が進むにつれて、公園の周囲には裕福な人々が居を構え、ジョージアンスタイルの豪華な住宅が立ち並ぶようになりました。公園の緑地は庭園として整備され、ダブリンの上流階級が集まる社交の場へと変貌しました。1814年には住民委員会が管理を担い、塀を手すりに置き換えるなどの改修が行われましたが、一般市民の立ち入りは引き続き制限されていました。ヴィクトリア女王が夫アルバート公を追悼して公園名の改称と像の設置を提案しましたが、これは地元住民と市議会の反対により実現しませんでした。公園が一般に開かれる転機となったのは19世紀後半です。ギネス醸造家のアーサー・ギネス卿が公園の一般公開を提案し、1877年にそのための法律が可決されました。ギネス卿は私費を投じて公園を再整備し、1880年 7月27日に正式に開園しました。彼の功績を称え、公園内にはギネス卿の像が建立されています。

セント・スティーブンス・グリーンは、アイルランド近代史における重要な舞台ともなりました。1916年のイースター蜂起では、反乱軍の一部が市内の建物ではなく、公園内に塹壕を掘って陣地を構築しました。しかし、隣接するシェルボーン・ホテルを占拠したイギリス軍から攻撃を受けやすい状況となり、最終的に反乱軍は公園西側の王立外科医学院へ撤退しました。激しい戦闘中も、公園の管理人が日課としてアヒルに餌を与える間は、一時的に停戦が守られたという逸話が残されています。現在、公園の管理はアイルランド国家から委託を受けた公共事業局（OPW）が行っています。

公園の設計は開園以来、何度かの変遷を遂げています。最初の囲いは1670年に植えられたシナノキの並木でした。1815年には測量技師アーサー・ネヴィルによる再設計で曲がりくねった小道などが加わりました。そして、現在の主要なデザインは、19世紀後半の一般開園に向けた再整備の際に、ウィリアム・シェパードが設計し、アーサー・ギネス卿が支援した計画に基づいています。この計画には、公園の各角に設けられた門や、園路の配置などが含まれており、ギネス卿自身も珍しい植物の導入に関与したと言われています。

現在の公園は、ダブリンにある三つの古典庭園の一つとして、多様な魅力を備えています。中央の広大な庭園エリアに加え、北西角には盲人向け庭園があり、香りや手触りで植物を楽しめるよう配慮されています。その北側には大きな湖があり、様々な水鳥が生息し、人工滝や観賞用のガゼボが配されています。この湖の水はポートベロの大運河から供給されています。公園内には、野外ステージを囲むエリアや、2010年に改修された運動場なども整備されています。かつて1758年に建立されたジョージ2世の騎馬像が公園の中央にありましたが、これは1937年に爆破されています。

交通アクセスについても触れておきましょう。公園東側の通りには、ダブリンバスの多くの系統が停車するバス停があります。また、公園西側にはルアス・グリーンラインのセント・スティーブンス・グリーン停留場があり、公共交通機関を利用して容易にアクセスできます。

セント・スティーブンス・グリーンは、歴史的な変遷を経て、湿地帯から住民専用の庭園、そして誰でも利用できる市民公園へと発展してきました。過去の出来事の痕跡を残しつつ、緑豊かな空間と多様な施設を備えたこの公園は、ダブリン市民にとってかけがえのない憩いの場であり、街の歴史と文化を物語る重要な場所として、今も多くの人々に愛され続けています。

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