ルアス

ルアス（Luas）

アイルランドの首都ダブリンを縦横に走る路面電車、それが「ルアス」です。アイルランド語で「スピード」を意味するその名の通り、市内とその周辺地域における迅速かつ快適な公共交通機関として機能しています。このシステムは、2004年に開業したグリーンラインとレッドラインの2路線で構成されています。

路線概要

ルアスには、グリーンラインとレッドラインの二つの主要路線があります。

グリーンラインは2004年6月30日に運行を開始しました。ダブリン市内中心部のセント・スティーブンス・グリーンから、南東部のブライズ・グレンまでを結んでいます。この路線の大部分は、かつて存在した鉄道路線の廃線跡を利用した専用軌道で建設されており、比較的高い速度と安定した運行が可能です。
レッドラインは同年9月26日に開通しました。ダブリン市内東部の港湾エリアであるザ・ポイントから出発し、市内中心部の主要駅（コノリー駅、ヒューストン駅）を経由して、南西部のタラやサガートに至ります。こちらは新設区間が多く、特に中心部では道路上を走行する併用軌道区間が長いため、グリーンラインに比べて速度や定時性の面で差が見られます。

ルアスの運行はトランスデヴ社に委託されており、使用車両はフランスのアルストム社が製造する「シタディス」シリーズです。

計画から開業、そして成功へ

ダブリンに新しい路面電車システムを導入する構想は、1981年に提案され、1998年には二つの路線の建設が正式に決定しました。建設工事は2001年に始まり、開業予定は2003年でしたが、遅れを経てグリーンラインが2004年6月30日に、レッドラインが同年9月26日にそれぞれ開業しました。

開通後のルアスは、その快適さ、定時性、利用のしやすさから大きな成功を収め、ダブリンの公共交通網において重要な役割を果たすようになりました。多大な利用があり、国の補助金なしで運営されています。人口増加と交通渋滞に対応するため、開業後も既存路線の延伸や新たな計画が進められました。

クロスシティ化と路線網の拡大

長らく、ルアスの大きな課題の一つは、市内中心部においてグリーンラインとレッドラインの間を直接乗り換えることができず、徒歩での移動が必要だった点です。この不便さを解消するため、両路線を接続する計画、通称「ルアス・クロスシティ」が進められました。これはグリーンラインを北へ延伸し、レッドラインとの接続を可能にするものです。検討を経て計画が具体化し、工事が進められ、2017年12月9日に「ルアス・クロスシティ」が開業しました。これにより、市内中心部での両線間の乗り換えが可能となり、利用者の利便性は大幅に向上しました。

2020年現在、ルアスは以下の2路線で運行されています。

レッドライン: 東部のザ・ポイント/コノリー駅から、南西部のサガート/タラまで、全長約20.7km。
グリーンライン: 北部のブルームブリッジから、南部のサンディフォードを経てブライズ・グレンまで、全長24.5km。

車両と設備

ルアスは直流750Vの架空電車線方式を採用しており、軌間は1,435mmの国際標準軌です。車両はアルストム製シタディスで、専用軌道区間では最高時速70kmに達します。開業後、利用増加に伴い車両数は増強され、編成も長くなりました。全ての車両が低床構造となっており、車椅子での利用に対応しています。高架停留場にはエレベーターも設置され、アクセシビリティに配慮しています。

乗車システム

ルアスでは、紙製切符やICカードを利用して乗車します。切符は各停留場の自動券売機で購入でき、運賃ゾーン別や期間券などがあります。切符は支払い証明書として扱われます。

2011年には公共交通機関共通のICカード「リープカード」が導入され、ルアス独自のICカードは廃止されました。リープカードを利用する際は、乗車前に「タグオン」、降車後に「タグオフ」が必要です。

特定の社会福祉受給者には、無料でルアスを含む公共交通機関を利用できる公共サービスカードが提供されています。

運行と安全性

ルアスは、平日早朝から深夜まで、週末や祝日も運行しています。ピーク時間帯には高い頻度で運行されており、各停留場には次の列車の到着時刻などが表示されます。

ルアスは安全な輸送システムとして認識されています。開業前には安全意識向上のためのキャンペーンも実施されました。車両や停留場は常時監視されており、安全確保に努めています。しかしながら、開業以来、他の車両などとの衝突事故が複数発生しており、残念ながら死亡者も出ています。2020年5月までに、合計9名の死亡事故が報告されています。事故を防ぐため、車両の視認性を高める対策なども取られています。

ルアスは、ダブリンの公共交通網において不可欠な存在として、市民生活や観光を支えています。

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