ゼロ距離発進

ゼロ距離発進（Zero Length Launch）

ゼロ距離発進とは、航空機がほとんど滑走せずに離陸できる方法を指します。この技術は主に冷戦期に戦闘機の発進方法として検討され、特に敵の攻撃により滑走路が使用できなくなった際でも、迅速に発進可能な戦闘機の開発を目指しました。通常は大型ロケットブースターを搭載し、機体はランチャーに固定された状態で発進します。この方式により、たった数秒の間に機体は急激に加速し、離陸します。なお、ロケットブースターは離陸後に投棄される仕組みです。

ゼロ距離発進は滑走路を必要としないものの、着陸する際には滑走が求められます。そのため、仮に滑走路が全くなければ、発進はできても再び帰投することが困難になります。この点は、戦略的な観点から非常に重要です。そのため、ミッションを終えた後は、別の着陸可能な場所で着陸するか、場合によっては片道のみの出撃を余儀なくされることも想定されています。例えば、戦略爆撃機に対抗するための迎撃などがその一例です。また、非常に短い滑走距離であれば、JATO（ジェット補助推進離陸）やRATO（ロケット補助推進離陸）といったシステムを利用することで、離陸が可能となります。

歴史的背景

1950年代から1960年代にかけて、アメリカ、ドイツ、ソビエト連邦を含む各国でゼロ距離発進に関する実験が行われました。当初、技術的には問題は少なかったものの、大型ロケットブースターのコストや、即時に応答できる誘導ミサイルの発展により、実用化には至りませんでした。これに伴い、従来の滑走路に依存しないフィールド戦闘機の開発が促進され、その中には垂直離着陸機および短距離離着陸機などが含まれています。イギリスのハリアーやソビエトのYak-38、さらにはアメリカのF-15 STOL/MTDなどがその代表例です。

具体的な実験機と成果

以下は、ゼロ距離発進に関するいくつかの主要な試験機です。

1. F-84G（アメリカ空軍）- 1953年に開発が開始され、ゼロ距離発進と着陸を目的としたマット着陸方式が採用されました。無人機での発進試験が成功し、続いて有人機の試験も行われましたが、着陸試験時に機体が損傷したため計画は中止されました。

2. F-100D（アメリカ空軍）- 1957年に計画が開始され、隠匿された状態から発進し、攻撃後にパラシュート降下するというコンセプトのもと、発進試験は成功を収めました。

3. F-104G（西ドイツ空軍）- 1963年に開始されたこの計画でも、ブースターを用いて離陸試験に成功しました。

4. MiG-19（ソ連）- 1957年には有人発進試験が成功しています。

結論

ゼロ距離発進は、そのユニークな技術と急速な離陸能力により、戦闘機の運用に新たな可能性を提供しました。しかし、着陸の課題やコスト面での制約から、広く実用化されるには至らなかったという現実があります。それでも、この技術の探求は航空機運用の新しい戦略に影響を及ぼし続けています。

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