ソビエト連邦最高会議

概要

ソビエト連邦の議会制度の中核を担った「ソビエト連邦最高会議」（Верховный Совет СССР）は、同国の最高国家権力機関と位置づけられていました。立法権はもちろんのこと、他の国家機関を監督し、憲法を改正する唯一の権限も有するなど、非常に広範な権能が与えられていた機関です。

組織と役割（ペレストロイカ以前）

その構成は、連邦会議（連邦院）と民族会議（民族院）からなる二院制を採用していました。両院は法律を制定する上で等しい権限を持っており、議員の任期は1977年の憲法改正後は5年（それ以前は4年）と定められていました。連邦会議は、ソ連全土を人口30万人ごとに区切った選挙区から各1名が選出される地域代表の性質を持っていました。一方、民族会議は、ソ連を構成する様々な民族の多様性を反映するため、連邦を構成する共和国、自治共和国、自治区、民族管区といった単位から代議員が選ばれていました。両院とも定数は750名、合計1500名で構成されていました。最高会議は通常2年に一度召集されましたが、必要に応じて臨時召集も可能でした。閉会中は、常設機関である最高会議幹部会が日常業務を担い、その議長はソビエト連邦の国家元首としての役割を果たしました。また、最高裁判所や検事総長といった重要なポストの任命権も最高会議が有していました。

歴史的変遷と実態

ソ連最高会議は、1936年に公布された「スターリン憲法」に基づき設立が定められ、1937年の選挙を経て1938年から正式に活動を開始しました。初期の任期は4年でしたが、第二次世界大戦（独ソ戦）の影響で1941年以降は選挙が延期され、戦後の1946年に第2期の選挙が行われました。これ以降は原則として4年ごとに選挙が実施されました。ソ連共産党の最高指導者を含む党幹部たちは、最高会議の代議員に選出されることで国家統治における形式的な正当性を得ていましたが、実際には共産党、特に政治局が国家の意思決定を独占しており、最高会議の討議は形骸化し、その機能は党の決定を追認する場にとどまっていました。選挙自体も共産党以外の候補者が実質的に認められない、自由な国民の意思を反映しないものでした。ブレジネフ時代の1977年には憲法が改正され、議員任期が5年に延長されるとともに、党書記長が最高会議幹部会議長を兼任するのが慣例となり、名実ともにソ連の最高指導者としての地位が確立されましたが、一党独裁体制の構造に変化はありませんでした。

ペレストロイカによる改革と終焉

1985年にミハイル・ゴルバチョフが指導者となり、「ペレストロイカ」（改革）に着手すると、民意との乖離が指摘されていた最高会議も改革の対象となりました。1988年の憲法改正により、新たな最高国家権力機関として「ソビエト連邦人民代議員大会」が創設され、最高会議はその大会の常設機関として位置づけられました。この改革に伴い、最高会議の定数は542名に削減され、人民代議員大会の中から選出される形になりました。権限自体は立法や閣僚会議議長（首相）の任命など広範なものを維持していましたが、人民代議員大会の決定には拘束されることになり、その地位は相対的に低下しました。最高会議幹部会の権限も大幅に縮小されました。1989年3月には、ソ連史上初めて複数候補者による自由な選挙が行われ、人民代議員大会の議員が選出されました。この選挙では、ブレジネフ時代に反体制派として扱われたアンドレイ・サハロフ氏のような急進的な改革派も当選しました。同年5月の人民代議員大会で、最高会議の議員が選出されるとともに、ゴルバチョフが国家元首である最高会議議長に選出されました。しかし、1990年3月に大統領制が導入されゴルバチョフが大統領に就任すると、最高会議議長にはアナトリー・ルキヤノフが選ばれましたが、彼は1991年の8月クーデターに関与したとして逮捕され、人民代議員大会及び最高会議の権威は決定的に失墜しました。これによりソビエト連邦自体の解体プロセスが加速しました。公式には、ソ連最高会議は1991年 12月26日のソビエト連邦の崩滅と同時に消滅したとされています（同年9月の人民代議員大会が自己解散を決議したことにより、その常設機関であった最高会議も同時に消滅したと解釈することも可能です）。

ソ連崩壊後の影響

ソ連崩壊後、独立した各共和国においても旧最高会議が立法府として存続しましたが、多くは名称を変更したり、新たな議会制度を導入したりしました。ロシア連邦では、人民代議員大会と最高会議が1993年の騒乱事件まで存続しましたが、エリツィン大統領によって武力で解体されました。現在、旧ソ連構成国で現地語による「最高会議」に相当する名称を国会の公式名称として維持しているのは、ウクライナ（ヴェルホーヴナ・ラーダ）とキルギス（ジョゴルク・ケネシ）の二カ国のみとなっています。また、ソ連を構成していた各共和国も、それぞれに独自の最高国家権力機関として一院制の最高会議を設置していました。

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