ソビエト連邦人民代議員大会

ソビエト連邦人民代議員大会

ソビエト連邦人民代議員大会（ロシア語: Съезд народных депутатов СССР）は、ソビエト連邦末期のミハイル・ゴルバチョフ政権下で、それまでのソ連最高会議に代わって設立された最高国家権力機関です。ペレストロイカ（改革）の一環として、ソビエト連邦の民主化を目指し導入されましたが、結果として共産党の一党独裁体制を揺るがし、ソ連崩壊の一因ともなりました。本稿では、その設立の背景から、解散に至るまでの経緯を詳細に解説します。

設立の背景

人民代議員大会設立の直接的な契機となったのは、1988年6月に開催された第19回ソ連共産党協議会でした。ペレストロイカにおける政治改革が進む中で、この協議会では共産党と国家の分離、党の民主化、議会制度の改革、法治主義の徹底といった重要方針が打ち出されました。新たな国家体制をめぐり、ソビエト国家の民主化を進めるか、アレクサンドル・ヤコブレフが主導した大統領制を導入するかの議論が交わされました。

ゴルバチョフは、それまで事実上共産党が単独候補を立てていた追認的な選挙を改め、複数候補による競争的な選挙で選ばれた議員によって構成される議会を通じて、ソビエト制度を刷新し、ペレストロイカを推進しようとしました。一方で、連邦構成体の各レベルの共産党幹部は、地方レベルのソビエト議長を兼務する方向性が示され、民主化の波はモスクワの中央から地方へと波及していくことになりました。

1988年12月には、最高会議で憲法が改正され、正式にソ連人民代議員大会が発足しました。代議員の任期は1期5年（最大2期10年）と定められ、定数は2,250名とされました。代議員は、以下の3つの方法で選出されました。

750名：地域選挙区（小選挙区）からの選出
750名：民族地域選挙区からの選出
750名：全連邦的な規模の社会団体（公共団体）からの選出

社会団体には、ソ連共産党、コムソモール、労組、協同組合、作家同盟などの創造的組合、ソ連科学アカデミーなどの諸団体、さらには認可された自主的団体などが含まれました。これらの団体には、それぞれ割り当てられた定数の代議員を選出することが定められました。

人民代議員大会の常設機関として、最高会議（定数542名）が選出される仕組みも形成されました。ゴルバチョフは、新設された最高会議議長に選出され、この議長職は、後にソ連大統領職が設置されるまで、国家元首と規定されました。人民代議員大会は、最高会議の決定により年1回召集され、閉会中は最高会議が常設議会として国政の重要事項を審議することになりました。

歴史

1989年3月26日、第1回人民代議員大会選挙が実施されました。この選挙は、ソ連史上初の自由選挙として特筆されます。選挙では、共産党が1,957名の当選者を出すものの、大都市部では保守派が敗北を喫しました。特に、ゴルバチョフのペレストロイカの遅れを批判し、モスクワ市党委員会第一書記を解任されていたボリス・エリツィンは、モスクワ選挙区から立候補し、9割の得票を得て当選、政治的復権を果たしました。この選挙では、急進改革派のアンドレイ・サハロフやガブリール・ポポフ、アナトリー・サプチャークなども当選を果たしました。一方で、バルト三国やアルメニアでは独立派が当選するなど、民族主義の台頭も目立ちました。

同年5月には、第1回人民代議員大会が召集され、ゴルバチョフは初代最高会議議長に選出されました。エリツィンやサハロフを中心とした急進改革派は、地域間代議員グループを結成し、社会主義から離脱して次第に共産党と対立する野党的な存在となっていきました。

新議会では、保守派と急進改革派の対立が先鋭化していくなか、東欧革命やソ連各地に噴出する民族問題によって情勢は大きく変化しました。共産党中央の権力が次第に衰退していく中で、急進改革派によって共産党一党独裁体制の法的根拠であったソ連憲法第6条（党の指導的役割に関する条項）の削除を求める声が高まり、1990年3月の第3回人民代議員大会で第6条は全面改正され、党の指導的役割に関する条項は削除されました。

また、ゴルバチョフは権力強化を目指して大統領職を新設し、人民代議員大会での憲法改正を受けて実施された大統領選挙で59％の支持を獲得して大統領に選出されました。後任の最高会議議長には、アナトリー・ルキヤノフ最高会議第一副議長が昇格しました。

新設された大統領隷下の大統領評議会と連邦評議会、執行機関と保守派を抱える人民代議員大会、そして党官僚機構との対立はますます顕著になっていきました。しかし、1991年のクーデターにルキヤノフ最高会議議長が黒幕として指導的役割を果たしたことで、人民代議員大会は急速にその権威を失っていきました。

1991年9月の第5回人民代議員大会は、混沌とした状況の中で議事が進行し、最終的に大会の廃止を決議しました。これにより、人民代議員大会はわずか2年余りの短い歴史に幕を閉じました。

歴代会期

第1回人民代議員大会：1989年5月25日 - 6月9日
第2回人民代議員大会：1989年12月12日 - 12月24日
第3回人民代議員大会：1990年3月12日 - 3月15日
第4回人民代議員大会：1990年12月17日 - 12月26日
第5回人民代議員大会：1991年9月2日 - 9月5日

関連項目

ソビエト
ソビエト連邦最高会議
ソビエト連邦最高会議幹部会議長
ウクライナ最高会議

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