ソル・フアナ＝イネス・デ・ラ・クルス

ソル・フアナ＝イネス・デ・ラ・クルス：知性と才能に輝いた修道女詩人

ソル・フアナ＝イネス・デ・ラ・クルス（1651年11月12日 - 1695年4月17日）は、ヌエバ・エスパーニャ（現在のメキシコ）が生んだ傑出した詩人、修道女、そして劇作家です。彼女は、スペイン黄金世紀演劇を代表する作家の一人として、その名を歴史に刻んでいます。

生涯

フアナ・イネスは、スペイン人兵士の庶子として生まれました。幼い頃から文学に目覚め、わずか3歳で祖父の蔵書を読み耽るほどの早熟ぶりを発揮します。ラテン語も早期に習得し、その才能は周囲を驚かせました。1664年頃には、メキシコシティのヌエバ・エスパーニャ副王宮廷に侍女として仕えることになります。

庶子という身分でありながら、フアナはその博学と教養で宮廷の人々を魅了し、「天才少女」として親しまれました。しかし、彼女は結婚という道を選ばず、学問探求のために修道女になることを決意します。一時、跣足カルメル修道会で数ヶ月を過ごした後、サン・ヘロニモ修道会のサンタ・パウラ修道院に入りました。

修道女となったフアナは、生涯を修道院で過ごしながら、詩作、演劇、哲学など、幅広い分野で才能を発揮しました。恋愛、宗教、社会問題など、多岐にわたるテーマを扱い、スペイン黄金世紀の文学界を牽引する存在となりました。

1693年、メキシコは飢饉と暴動に見舞われ、社会は混乱に陥ります。フアナは著作活動を停止し、翌年には自身のサロンを閉鎖、蔵書を売却して貧しい人々に分け与えました。1695年、ペストが流行すると、フアナは罹患した同僚の修道女たちの看病にあたり、自身も感染してしまいます。そして、同年4月17日、43歳という若さでこの世を去りました。彼女の死後、周囲に残されていたのは、わずか180冊の書物だけでした。

1978年、フアナ・イネスの遺骨が発見され、2011年には妹の子孫のDNAとの照合により、本人であることが確認されました。

業績と影響

ソル・フアナ＝イネス・デ・ラ・クルスの作品は、恋愛詩、宗教劇、哲学的な考察など、多岐にわたります。彼女の詩は、洗練された技巧と深い感情表現で知られ、演劇作品は、当時の社会や人間心理を鋭く描いています。特に、女性の教育の必要性を訴えた著作は、フェミニズム思想の先駆けとしても評価されています。

彼女の作品は、同時代のスペイン語文学に大きな影響を与えただけでなく、現代においても多くの読者を魅了し続けています。メキシコでは、200ペソ紙幣に肖像が描かれるなど、国民的なヒロインとして敬愛されています。

参考文献

オクタビオ・パス -『ソル・フアナ＝イネス・デ・ラ・クルスの生涯』林美智代訳、土曜美術社、2006年7月
『知への賛歌 修道女フアナの手紙』旦敬介訳、光文社古典新訳文庫、2007年10月
「神聖なるナルシソ」-『スペイン黄金世紀演劇集』牛島信明ほか訳、名古屋大学出版会、2003年
竹下節子 -『女のキリスト教史』、ちくま新書、2019年12月

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