ソーシャル・キャピタル

ソーシャル・キャピタル（社会関係資本）について

概要

ソーシャル・キャピタル、または社会関係資本は、社会学、政治学、経済学、経営学などの分野で用いられる重要な概念です。この考え方は、人々が互いに協力することによって、社会全体の効率性を向上させることができるという理解に基づいています。具体的には、信頼、規範、ネットワークといった社会的な仕組みの中で人々が築く関係性を重視し、社会の結束力を高める要素として捉えられています。

ソーシャル・キャピタルは、別名として人間関係資本や社交資本、さらには市民社会資本などとも呼ばれます。これらの用語は、同じ概念を指していますが、社会の資源がどのように構築されるかに関する視点の違いを反映しています。

概念の発展

19世紀から存在するソーシャル・キャピタルの概念は、ジョン・デューイが1899年に発表した『学校と社会』において初めて言及されています。その後もこの概念は進化を遂げ、1916年にはL.J.ハニファンがコミュニティの重要性を論じているほか、1961年にはジェイン・ジェイコブズがネットワークの価値を再評価しました。

1972年にはピエール・ブルデューがこの概念を初めて体系的に説明し、彼によると社会関係資本は人脈を示すものであり、持つ人ほど社会的地位の向上に有利だとされています。その後、アメリカの社会学者ジェームズ・コールマンがこの概念をさらに発展させ、個人の資本（ヒューマン・キャピタル）と異なり、他者との間に存在する資本であることを指摘しました。

コールマンの定義は広く受け入れられ、特に米国の社会的コンテキストにおいては、地域社会の衰退や個人主義の増加に対する反省から、ソーシャル・キャピタルの再評価が進むこととなります。

パットナムの貢献

1993年には政治学者ロバート・パットナムが『Making Democracy Work』の中で、社会におけるソーシャル・キャピタルの蓄積が、地域の統治の効果に影響を与えることを指摘しました。彼は特にイタリアの地域を例に、南北の差異がソーシャル・キャピタルによるものであると論じ、これは社会的な活動の重要性を再確認する契機となりました。また、彼の著書『Bowling Alone』は、アメリカにおける地域コミュニティの衰退について警鐘を鳴らし、広く知られるようになりました。

ソーシャル・キャピタルの豊かさは、地域や市民のつながりの重要性を示し、具体的な指標としてはボランティア活動や社会への信頼度が挙げられます。これにより、政治的な参加や教育成果、治安の向上、地域経済の発展など、さまざまな社会的・経済的な成果が期待されています。

日本におけるソーシャル・キャピタルの研究

日本では、ソーシャル・キャピタルの概念が注目され、特に地域力や地域の結束力を高めるための基盤として位置づけられています。災害復興や地域づくりに活用される場面が多く、阪神淡路大震災や有珠山噴火の際には、ソーシャル・キャピタルが地域の結束を強化する要素として機能しました。

日本の研究者たちも、この概念に基づく多様な定義を試みており、信頼、規範、ネットワークなどの要素を含む社会構造を強調しています。特に、稲葉陽二や山村靖彦などが、福祉やコミュニティを視野に入れた研究を行い、地域の絆や信頼の重要性を示しています。

批判と問題提起

ソーシャル・キャピタルには、その積極的な評価に反して、流動的な社会関係の重要性を指摘する意見もあります。ジョン・アーリやスコット・ラッシュは、蓄積される資本だけではなく、日々の変化に応じた関係性が重要であると主張しています。

また、訳語の問題も存在し、ソーシャル・キャピタルを直訳した「社会資本」がインフラに関連する概念と混同されることが多いため、より適切な訳語として「社会関係資本」が使われることが一般的です。これにより、人間関係の豊かさを強調し、コミュニティの重要性を一層明確に示すことが可能となります。

結論

ソーシャル・キャピタルは、人々の信頼やネットワークを基盤に、社会全体の協力を促す重要な資源です。今日,この概念は国際的に注目されており、地域の結束やコミュニティへの参加の重要性が理解されつつあります。

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