ソー・エイブル

ソー・エイブル (Thor-Able)

概要

ソー・エイブルは、アメリカ合衆国が1958年から1960年にかけて運用した使い捨て型の打ち上げロケットです。その主な目的は、大気圏再突入機の実証試験や、黎明期の人工衛星を軌道に乗せることでした。ソー・エイブルは、ソーロケットファミリーの一員として開発され、後のアメリカ宇宙開発において重要な役割を担うデルタロケットシリーズの礎となりました。

機体とその特徴

このロケットは基本的に2段式として設計されました。第1段には、アメリカ空軍の中距離弾道ミサイルであるPGM-17ソーを改良したものが用いられました。一方、第2段の「エイブル・ステージ」は、ヴァンガードロケットの開発から派生した技術を基に構築されました。一部のミッションでは、より高い軌道や月面通過軌道を目指すために、第3段としてAltair固体燃料ロケットモーターが追加される構成も採用されました。

原型となったPGM-17と比較して、ソー・エイブルはより強力なエンジンを搭載していました。また、誘導システムにも変更が加えられ、PGM-17の慣性誘導システムは、エイブル・ステージに組み込まれた無線誘導パッケージに置き換えられています。

運用と実績

ソー・エイブルは、ケープカナベラル空軍基地（現在のケープカナベラル宇宙軍施設）の打ち上げ複合施設17Aから、合計16回打ち上げられました。これらのミッションの内訳は、9回が再突入機の性能を評価するための弾道飛行試験、そして7回が科学衛星などを軌道に投入するための打ち上げでした。

残念ながら、16回の打ち上げのうち6回が失敗に終わりました。特筆すべき失敗の中には、月面通過軌道への投入を目指し、追加された第3段Altairが関与したものが3回含まれています。これは、当時の固体ロケットモーターの信頼性や、多段式ロケットの複雑さを示す事例と言えます。

主要なミッション事例

生物搭載テスト (MIA / ウィッキー)

ソー・エイブルは、宇宙空間が生物に与える影響を調べるための初期の試みにも使用されました。1958年4月23日、ソー・エイブル116号は「MIA」（Mouse In Able）と名付けられたマウスを搭載したノーズコーンを載せて打ち上げられました。これはアメリカ初の生物搭載テストでした。しかし、打ち上げからわずか2分15秒後、ターボポンプのベアリング故障によりロケットは爆発し、マウスは残念ながら宇宙に到達することなく大西洋に落下しました。

同年7月9日には、再びマウスを載せた「MIA II」ミッションがソー・エイブル118号で行われました。この打ち上げ自体は成功し、マウスを載せたカプセルは大気圏外に到達しましたが、着水後の回収が叶わず、カプセルは失われてしまいました。

3度目の挑戦は7月23日に行われました。この時のマウスは、マスコミによって「ウィッキー」と命名されました。テレメトリーデータからは、マウスが離陸から大気圏再突入までの全行程で生存していたことが確認され、生物が宇宙旅行に耐えうる可能性を実証する重要なデータとなりました。

初期宇宙探査機と技術的課題

ソー・エイブルは、アメリカ初の月探査機であるパイオニアプログラムにも投入されました。1958年8月17日に打ち上げられたパイオニア0号を搭載したソー・エイブル127号は、打ち上げ後77秒で爆発しました。この失敗の原因は、MIA Iと同様にターボポンプの不具合でした。この問題は同時期のアトラスミサイルでも発生していたため、空軍は直ちに全ミサイルのターボポンプを交換し、この共通の技術的課題を解決に導きました。

続くパイオニア1号（1958年10月10日、ソー130号）は、第2段の早期停止により月への到達に必要な速度を得られず、大気圏に再突入して失われました。パイオニア2号（1958年11月8日）では、第3段が点火せず、同様に大気圏へ戻ってしまいました。

軌道下試験と衛星打ち上げの成功

1959年には、空軍による6回の軌道下試験飛行が実施されました。最初の1回は電気系統の不具合によるステージ分離失敗で失敗しましたが、残りの5回は成功を収めています。

人工衛星の軌道投入ミッションでは、1959年8月7日に科学衛星エクスプローラー6号の打ち上げに成功しました。一方、同年9月17日のトランジット1A衛星の打ち上げは、第3段の再点火失敗により軌道投入に至りませんでした。

ソー・エイブルによる最後の成功事例として、1959年11月3日にはパイオニア5号、そして1960年4月1日には気象衛星タイロス1号の打ち上げに成功しています。パイオニア5号は当初金星探査機として計画されましたが、打ち上げ時期のずれから太陽周回軌道に投入されました。

名称の由来

「エイブル（Able）」という名前は、当時の合同陸軍/海軍フォネティックコード（音声コード）におけるアルファベットの「A」に対応する言葉から取られています。これは、ソー・エイブルがソーロケットシリーズの中で最初に開発されたロケットであることを示唆しています。

結論

ソー・エイブルは、わずか数年間の短い運用期間でしたが、大気圏再突入技術の検証や、初期の科学衛星、探査機の打ち上げを通じて、アメリカの宇宙開発黎明期において重要な役割を果たしました。特に、ターボポンプ問題のような技術的課題の発見と解決、そして生物の宇宙飛行適応性に関する知見は、その後の宇宙開発プログラム、特に人間を宇宙へ送る計画に向けた貴重な経験となりました。その技術的遺産は、後継となるデルタロケットシリーズへと引き継がれていきました。

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