タイラギ

タイラギ（玉珧）

タイラギ（玉珧、Atrina pectinata）は、イガイ目ハボウキガイ科に属する大型の二枚貝です。内湾の砂泥底に生息し、古くから食用として利用されてきました。標準和名のタイラギは「平貝（たいらがい）」が転訛したもので、市場やメディアでは「タイラギ貝」と表記されることもあります。

分類

日本に生息するタイラギには、殻の表面に細かい鱗片状突起のある「有鱗型」と、突起のない平滑な「無鱗型」の2つの型が存在します。かつては同一種内の形態変異と考えられていましたが、遺伝学的研究の結果、これらは別種であることが判明しました。さらに、両者間には雑種も比較的多く存在することも明らかになっています。

無鱗型は Atrina pectinata japonica (Reeve)、有鱗型は A. pectinata lischkeana (Clessin) として亜種扱いされることもありますが、別種であるため不適当です。現在、学名の再整理が検討されており、本稿では暫定的に最も古い学名である Atrina pectinata を使用します。

一般的に、有鱗型の方が資源量が多く、「タイラギ」として広く知られています。一方、無鱗型には「ズベ」という地方名があり、「ズベタイラギ」という種名が提唱されています。

近縁種

ハボウキガイ (Pinna bicolor*)：タイラギに似ていますが、殻が細長く、閉殻筋が小さいです。外套膜も薄く、食用にはあまり適しません。

別名

エボウシガイ、タイラガイ、テエラゲエ、ババトリ（関西地方）、バチガイ（北海道）、ハシラ、タチガイ、タテガイなど。中華料理では「帯子」（ダイズ、dàizi）と呼ばれることが多いです。

分布

日本では房総半島以南の内湾に分布し、水深10mから50m程度の砂泥底に生息します。主要な生息地は、東京湾、伊勢湾、三河湾、瀬戸内海、有明海などです。海外では、西太平洋からベンガル湾にかけて分布するとされますが、同胞種が多く存在する可能性があります。

タイラギは朝鮮半島や中国でも重要な水産資源であり、韓国では有鱗型と無鱗型の2型が生息しています。中国では、形態的・遺伝的に区別される4型が存在するとされ、分類学的整理が望まれています。

形態

殻長30cm以上、殻高20cm以上に達する大型種です。殻は三角形で、内面には真珠光沢があります。外面には放射肋があり、有鱗型では肋上に細かい鱗片状突起が並びます。殻は薄くて壊れやすいです。

軟体部も大きく、後閉殻筋は直径5cm以上に達します。外套膜はクリーム色から橙色で、長くて分厚いです。足は細くて小さいです。

生態

貝殻の尖った方を下にして海底に刺さるように生息し、足糸で体を固定します。砂泥の上には殻の後端部がわずかに顔を出す程度です。有鱗型は浅海部の砂質に、無鱗型はやや深い海域の泥質に生息します。

産卵期は夏で、卵は海中に放出され受精します。孵化した幼生は海中を漂いながら成長し、着底します。成長は早く、2年後には殻長が20cmを超えます。

かつて有明海では、ヘルメット潜水でタイラギを漁獲していましたが、近年はほとんど漁獲されなくなりました。諫早湾干拓事業との関連や、水温上昇による影響も指摘されています。

利用

貝柱のむき身や冷凍品、粕漬け、干し貝柱などが流通します。日本では刺身、寿司種、焼き物、汁物などに利用されます。中国では、広東料理や潮州料理で蒸し物や炒め物としてよく用いられます。韓国では「키조개」（キジョゲ）といい、刺身や炒め物、鍋物などに利用されます。

生では柔らかくて甘く、火を通すと歯ごたえと旨みが増します。外套膜（ヒモ）も食用にされ、バター焼きなどにすると美味です。

食中毒

腸炎ビブリオによる食中毒が報告されています。また、ピンナトキシンによる貝毒中毒の可能性も指摘されています。

価格

かつては高価な食材でしたが、韓国産の廉価なタイラギやホタテガイの養殖品が出回るようになり、価格は低下しました。現在では1kgあたり数千円程度で取引されています。

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