タチツボスミレ

タチツボスミレ（立坪菫）

タチツボスミレ（学名: Viola grypoceras var. grypoceras または Viola grypoceras）は、スミレ科スミレ属の多年草です。別名ヤブスミレとも呼ばれ、日本で最も身近に見られるスミレの一つです。

特徴

葉: 丸みを帯びたハート形で、葉脈がはっきりしています。スミレと比べて丸い葉が特徴です。
茎: 成長すると地表に立ち上がり、葉をつけます。スミレの仲間では珍しく、茎が立ち上がるのが名前の由来にもなっています。
花: 花期は3月から5月頃で、薄紫色の花を咲かせます。花弁には濃い紫色の筋が入っています。距（花の後ろにある蜜をためる部分）が大工道具の墨入れに似ていることが、スミレの名前の由来と言われています。

分布と生育環境

北海道から琉球列島、国外では朝鮮半島南部、中国南部まで広く分布しています。野原から山林まで様々な環境に生育し、道端、公園、雑木林、畑の畦道など、身近な場所で見られます。垂直分布も広く、本州中部では海岸から亜高山まで分布しています。

スミレとの違い

タチツボスミレとスミレはよく似ていますが、以下の点で区別できます。

特徴	タチツボスミレ	スミレ
---	----------	---------
茎	地表に立ち上がる	立ち上がらない
葉	丸っこいハート形	細長い矛型
花の色	薄紫色	濃い紫色

変異種

タチツボスミレは分布域が広く、生育環境も多様なため、さまざまな変異種が存在します。

コタチツボスミレ: 小型で、葉は三角形に近く、茎は横に這うように伸びることが多いです。
ツルタチツボスミレ: 葉は小さく三角形で、茎は横に伸び、先端の芽が地表で新しい苗になります。多雪地帯に適応した変種と考えられています。
ケタチツボスミレ: 茎や葉に毛が生えています。

近似種

タチツボスミレには、よく似た近似種も存在します。これらの種が混在している場合もあり、区別が難しいことがあります。

アイヌタチツボスミレ: 地下茎が強く木質化し、托葉が浅く切れ込みます。
オオタチツボスミレ: 草丈が40cmにもなります。
イソスミレ: 花は茎からのみ生えます。海岸砂地に生育します。
ナガハシスミレ: 距が非常に長くとがっています。
テリハタチツボスミレ: 葉が厚く光沢があります。
ナガバタチツボスミレ: 立ち上がった茎から出る葉が、根出葉よりも細長くなります。
ニオイタチツボスミレ: 花に香りがあり、花の中心部が白く抜けます。

その他

タチツボスミレは、1994年4月25日発売の430円普通切手の意匠にもなりました。身近なスミレとして、多くの人に親しまれています。

タチツボスミレは、日本の自然を代表する美しい植物の一つです。春の野山を散策する際には、ぜひ探してみてください。

参考文献

いがりまさし『山渓ハンディ図鑑6 増補改訂 日本のスミレ』山と溪谷社、2008年。
亀田龍吉『ルーペで発見! 雑草観察ブック』世界文化社、2019年3月15日、6 - 7頁。ISBN 978-4-418-19203-8。
牧野富太郎『牧野 新日本植物図鑑』図鑑の北隆館、1961年。
* 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎ほか『日本の野生植物 草本II 離弁花類』平凡社、1982年。

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