タッグ・オブ・ウォー

ポール・マッカートニー『タッグ・オブ・ウォー』：悲しみと希望が交錯する傑作アルバム

1982年、ポール・マッカートニーのソロ3作目となるアルバム『タッグ・オブ・ウォー』がリリースされました。ビートルズの黄金時代を支えた名プロデューサー、ジョージ・マーティンが制作に携わったこのアルバムは、マッカートニーの音楽人生における転換期、そして数々の困難を乗り越えて完成した、重要な作品と言えるでしょう。

制作背景：喪失と再生の物語

このアルバムの制作は、決して平坦な道のりではありませんでした。1980年1月、マッカートニーは日本での逮捕という出来事を経験します。この事件の後、ウイングスの活動は停滞し、メンバーはそれぞれのソロ活動に精力を注ぐようになりました。しかし、同年8月、マッカートニーはウイングスのギタリスト、デニー・レインと再会。本作のデモレコーディングが始まりました。

同年10月にはウイングスのメンバーがスタジオに集まり、8月にレコーディングされたデモを基にしたリハーサルセッションが行われています。この時点では、本作がウイングスのアルバムとして発売される可能性もあったのです。

マッカートニーは迷いの末、ジョージ・マーティンにプロデュースを依頼しました。ソロアルバムかウイングスのアルバムか、その決断を下すことができなかったのです。マーティンはまず、10月末にソロ名義のシングル「ウィ・オール・スタンド・トゥゲザー」のプロデュースを行いました。

12月初旬、レコーディングはロンドンのAIRスタジオで本格的にスタート。「ボールルーム・ダンシング」や「キープ・アンダー・カヴァー」といった楽曲のレコーディングが開始されました。しかし、12月8日、マッカートニーに大きな悲劇が襲いかかります。ビートルズの盟友、ジョン・レノンの銃撃死の報せが届いたのです。

マッカートニーは深い悲しみに包まれましたが、平静を保つためスタジオに籠り、レインと共に「レインクラウズ」のレコーディングに取り組みました。しかし、ショックは大きく、数ヶ月間自宅に引きこもる時期もありました。

1981年2月1日から3月4日にかけて、マッカートニーはカリブ海のモントセラト島で過ごします。マーティンが所有するAIRスタジオを拠点に、レコーディングは再開されました。スティーヴ・ガッド、スタンリー・クラーク、リンゴ・スター、カール・パーキンス、スティーヴィー・ワンダーといった豪華メンバーが参加しています。

しかし、モントセラト島でのレコーディング中に、マッカートニーとレインの間に言い争いが発生。レインはモントセラト島を去ることになります。ロンドンのスタジオに戻りレコーディングを続行する中、4月27日、レインの脱退が発表され、ウイングスは正式に解散しました。

ウイングスの解散後、マッカートニーはさらに時間をかけてレコーディングを続けました。結果、2枚組に相当するほどの楽曲が完成。アルバム未収録の楽曲の一部は、次のアルバム『パイプス・オブ・ピース』に収録されています。

楽曲の魅力：名曲揃いの珠玉のアルバム

『タッグ・オブ・ウォー』には、多くの名曲が収録されています。中でも最も有名なのは、アルバムを締めくくるスティーヴィー・ワンダーとのデュエット曲「エボニー・アンド・アイボリー」です。この曲は、モントセラト島で書かれ、両者にとって大ヒットとなりました。日本では10万枚以上のセールスを記録。ワンダーは作曲者としてクレジットされていませんが、共同作業によって作曲されたとされています。この曲は、ワンダーにとって初のイギリスでの首位獲得曲となり、マッカートニーは「この曲のレコーディングには随分時間をかけたが、それだけやっておいてよかった」と語っています。

他に、ワンダーとの共作曲「ホワッツ・ザット・ユアー・ドゥイン」、マッカートニーが少年時代から憧れていたカール・パーキンスとのデュエット曲「ゲット・イット」も収録されています。

「テイク・イット・アウェイ」は、元々はリンゴ・スターのアルバムのために書かれた曲でしたが、マッカートニー自身が歌う方が適していると判断し、自らレコーディングしました。リンゴ・スターとスティーヴ・ガッドがツインドラムで参加していることも特徴です。

ジョン・レノンの死を悼む曲「ヒア・トゥデイ」も収録されています。この曲は、ジョージ・ハリスンがレノンを偲んで作った「過ぎ去りし日々」と共通する思いが込められていると言えるでしょう。マッカートニーは当初、ジョージ・ハリスンに「ワンダーラスト」のギターソロを依頼しようと考えていましたが、実現しませんでした。

まとめ：苦悩と創造の結晶

『タッグ・オブ・ウォー』は、個人的な悲しみやバンドの解散といった困難を乗り越えて制作された、マッカートニーの音楽人生における重要な作品です。豪華なミュージシャン陣の参加、そして数々の名曲によって彩られたこのアルバムは、彼の音楽的才能と、困難を乗り越える力強さを示す、まさに「苦悩と創造の結晶」と言えるでしょう。名曲の数々とその制作背景を知ることで、このアルバムへの理解はより一層深まるはずです。

もう一度検索