タマル (食品)

タマル：メソアメリカを代表する伝統料理

タマルは、メキシコや中央アメリカ、南アメリカで親しまれる伝統的な料理です。すりつぶしたトウモロコシの生地（マサ）を、トウモロコシの葉やバナナの葉などで包み、蒸して調理します。その歴史は古く、先コロンブス期からメソアメリカの人々の重要な食文化として存在していました。

名称の由来と広がり

タマルの語源は、ナワトル語の「tamalli」に由来します。スペイン語では「tamal」、英語では複数形の「tamales」が一般的です。日本では「タマル」のほかに「タマリ」「タマレ」「タマレス」など、複数の呼び名で知られています。

多様な姿と味：地域によるバリエーション

タマルは、地域によって大きさ、材料、調理方法、味など、実に多様なバリエーションがあります。メキシコ北部では小型のタマルが一般的ですが、サカウィルと呼ばれる90センチにも及ぶ巨大なタマルも存在します。ミチョアカン州では三角形の「コルンダ」という形状のタマルや、牛乳、砂糖、シナモンを加えた甘いタマル「ウチェポ・デ・レチェ」などが食べられています。

メキシコでは、祭りの日、特に諸聖人の日にタマルが作られ、親族や地域住民と分かち合う習慣があります。また、レストランの定番メニューや、早朝の市場で手軽に購入できる日常食でもあります。ラテンアメリカ諸国では、クリスマスや復活祭など、特別な祝祭日にタマルを食べる習慣が見られます。

材料と作り方：マサと包み葉のハーモニー

タマルの生地であるマサは、通常、トルティーヤを作る場合よりも粗めに挽いたトウモロコシ粉を使用します。トウモロコシを石灰水で処理するニシュタマリゼーションという伝統的な方法で、独特の風味と食感を生み出します。

マサにラードや塩、肉汁、ベーキングパウダーなどを加えてこね、トウモロコシの葉で包んで蒸します。蒸す時間は約2～3時間。

詰め物には、豚肉や鶏肉などの肉類が一般的ですが、魚介類、カボチャ、パイナップル、ピーナッツなど、地域や好みに応じて様々な食材が用いられます。甘いタマルには、砂糖やシナモンが加えられます。

歴史を語るタマル：古代から現代へ

16世紀のアステカの絵文書には、タマルがうずまき状のシンボルとして描かれており、古代から重要な食料であったことが示唆されています。古代マヤ文明においても、トルティーヤよりもタマルの方が一般的であったと考えられています。

1841年のジョン・ロイド・スティーヴンズの著書には、ユカタン半島のマヤ族が諸聖人の日に作る「ムクピポヨ」というタマルに似た料理の習慣が記録されています。これは現在も受け継がれている伝統です。

アメリカ合衆国では、1890年代から1940年代にかけて、「タマルマン」と呼ばれる露天商が路上でタマルを販売していました。彼らの中には、メキシコ人以外にも、ヨーロッパからの移民も多くいたと言われています。

文化と音楽：タマルにまつわる逸話

ブルースシンガー、ロバート・ジョンソンの楽曲「THEY'RE RED HOT」の邦題は「赤く熟したトマト」ですが、歌詞の内容から、実際には「タマル」を指しているのではないかという説もあります。これは、歌詞における「タマル」と「トマト」の発音の類似性に基づいた見解です。

まとめ

タマルは、単なる食べ物ではなく、メソアメリカの人々の歴史、文化、伝統を象徴する存在です。多様なバリエーションと奥深い歴史を持つタマルは、これからも人々の生活に彩りを添え続けることでしょう。

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