タルピオス

タルピオス (Θάλπιος)

タルピオスは、古代ギリシアの神話に登場する英雄であり、主にエーリス地方にゆかりのある人物として知られています。彼の出自は、当地の著名な英雄であったモリオネ（あるいはモリオナイ、モリオンの子らとも）と呼ばれる双生児の一方、エウリュトスに遡ります。母はオーレノス地方の王デクサメノスの娘であるテーライポネーでした。このように、タルピオスはエーリス地方の有力な家系に生まれました。

タルピオスには、父方の従兄弟にあたる人物がいました。それは、モリオネのもう一人の兄弟であるクテアトスの子アムピマコスです。タルピオスとアムピマコスは非常に親しい関係にあり、後の神話的な出来事にもしばしば共に名を連ねています。例えば、スパルタ王テュンダレオスの子である美姫ヘレネーに、ギリシア全土から多くの英雄たちが求婚した際、タルピオスとアムピマコスも連名でその列に加わりました。これは、彼らが当時のギリシア世界において、ヘレネーの夫となるにふさわしい名声や地位を有していたことを示しています。

ヘレネーがスパルタを去り、トロイアへ渡ったことで発生したトロイア戦争において、タルピオスはギリシア（アカイア）側の主要な武将の一人として参戦しました。古代ギリシア文学の金字塔であるホメーロスの叙事詩『イリアス』によれば、タルピオスは従兄弟アムピマコスのほか、アガステネースの子ポリュクセノス、そしてアマリュンケウスの子ディオーレースとともに、エーリス地方から集められた軍勢の指揮官を務めました。エーリス勢は総勢40隻の船団を率いてトロイアを目指し、それぞれの将軍が10隻ずつを率いたと描写されています。

他の古代の著述家たちも、タルピオスのトロイア戦争における役割に言及しています。例えば、地理学者パウサニアースが著した『ギリシア記』や、トロイア戦争の物語を伝えるクレーテーのディクテュスやプリュギアのダレースの記述においても、ホメーロスと同様にタルピオスを含む4名の将軍がエーリスの40隻の軍船を率いたと記録されています。しかし、全ての文献が同じ見解を示すわけではありません。神話を集大成したアポロドーロスの記述では、エーリスから40隻の船を率いたのはアムピマコスと「その仲間たち」とされており、タルピオスの名前が単独で挙げられていない可能性もあります。また、ローマ時代の神話集を編纂したヒュギーヌスは、アムピマコスが10隻を率いたことには触れていますが、タルピオスについては言及していません。これらの記述の差異は、伝承の過程で細部が異なったり、特定の人物に焦点が当てられたりした結果と考えられますが、少なくとも主要な文献においては、タルピオスがトロイア戦争におけるエーリス軍の重要な指揮官の一人であったという事実は広く認められています。

タルピオスは、トロイア戦争の長期にわたる戦いを従兄弟アムピマコスと共に戦い抜きました。そして、戦争の最終局面において、ギリシア軍がトロイアを陥落させるために用いた決定的手段である、有名な「木馬作戦」にも参加したと伝えられています。これは、タルピオスが単なる指揮官としてだけでなく、トロイア攻略の鍵となる極秘作戦にも選ばれるほど、信頼され、重要な役割を担っていたことを示唆しています。戦争終結後の彼の具体的な運命については、詳細な記述は少ないものの、アカイア側の勝利に貢献した英雄の一人としてその名が残されています。

このように、タルピオスはエーリス地方の由緒ある家柄に生まれ、従兄弟アムピマコスと行動を共にし、ヘレネーへの求婚やトロイア戦争への参加、特にエーリス軍の指揮官として、そして木馬作戦の一員として、ギリシア神話におけるトロイア戦争の物語の中で一定の存在感を示した人物と言えます。様々な文献によってその記述には多少の揺らぎが見られますが、彼の名はアカイア側の勝利に貢献した英雄の一人として、神話の中に確かに刻まれています。

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