アガステネース

アガステネース（Agasthenēs）

アガステネースは、古代ギリシャ神話に登場する人物であり、エーリス地方を統治した名高い王アウゲイアースの息子として知られています。彼の名は古希腊語で「輝かしい力を持つ者」といった意味合いを持ち、長母音を省略してアガステネスと表記されることもあります。

彼の父アウゲイアースは、太陽神ヘーリオスの子ともされるエーリス王で、その広大な牛舎は有名でした。アガステネースは、父の王国の後継者の一人であり、兄弟にはピューレウス、アガメーデー、エピカステーがいました。妻はペローリスとされており、彼女との間にポリュクセノスという息子をもうけています。

アガステネースの生涯における重要な出来事の一つは、父アウゲイアースと英雄ヘーラクレースとの間の確執に関連しています。ヘーラクレースは、エウリュステウスから課された十二の功業の一つとして、アウゲイアースの牛舎の掃除を命じられました。ヘーラクレースはこれを一日で成し遂げるという条件で報酬を約束されましたが、仕事が終わるとアウゲイアースはその約束を反故にしました。この問題を解決するため、裁判が開かれましたが、アウゲイアースの子であるピューレウスは父に不利な、すなわちヘーラクレースに有利な証言をしました。このため、ピューレウスは父によって国外追放され、メッセニア地方のドゥーリキオンに移住しました。

後に、ヘーラクレースはアウゲイアースの不義に対して復讐するため、軍勢を率いてエーリス地方を攻撃しました。この攻撃によってアウゲイアースは殺害され、エーリスはヘーラクレースの支配下に置かれることになります。ヘーラクレースは、かつて自分を支持したピューレウスをドゥーリキオンから呼び戻し、エーリスの王権を与えました。しかし、ピューレウスはエーリスの国制を確立した後、自らの領地であるドゥーリキオンへと帰還しました。これにより、エーリスの王位が再び空位となった、あるいは別の形での継承が必要となりました。

伝承によれば、アウゲイアースの死後、王権はアガステネースへと引き継がれました。これは、ピューレウスがエーリスではなくドゥーリキオンを本拠地としたため、アウゲイアースの他の息子であるアガステネースが父の後を継ぐことになったと考えられています。このように、アガステネースは複雑な経緯を経てエーリスの王位に就いたとされています。

ただし、神話には複数のバージョンが存在します。アポロドーロスが伝える伝承では、ヘーラクレースがエーリスを攻撃した際に、アウゲイアースだけでなく、その息子たちの多くも殺害されたとされています。この伝承では、ピューレウスだけが生き残り、彼がヘーラクレースから王権を与えられたと描かれています。この記述は、アガステネースがアウゲイアースの死後に王位を継承したとする伝承とは異なっており、神話における出来事の多様な解釈を示しています。

アガステネースの息子ポリュクセノスは、後にトロイア戦争にギリシャ側の一員として参加しました。ホメロスの叙事詩『イリアス』によれば、ポリュクセノスはエーリスとは別の地域であるドゥーリキオンや周辺の島々から兵を率いてトロイアへと向かっています。これは、彼の祖父アウゲイアースの代に追放されたピューレウスの子孫がドゥーリキオンを拠点としていたことと関連している可能性も考えられますが、アガステネースの子であるポリュクセノスがなぜドゥーリキオンから参加したのかは、伝承によって詳細が異なります。しかし、アガステネースの家系がギリシャ神話の主要な出来事に関わっていたことは確かです。

アガステネースに関する記述は、主にパウサニアスやアポロドーロスといった古代の著述家による文献に見られます。これらの記述を通じて、アガステネースがエーリスの王位を巡る複雑な状況の中で重要な役割を果たした人物であったことが窺えます。彼の物語は、神話時代の王家の権力継承や、英雄ヘーラクレースとの関わりを示す一例となっています。

（総文字数：約1350文字）

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