ターナーの汽罐車 -Turner's Steamroller-

山下達郎 シングル「ターナーの汽罐車 -Turner's Steamroller-」詳細解説

1991年8月25日、山下達郎の22枚目のシングル「ターナーの汽罐車 -Turner's Steamroller-」がリリースされました。この楽曲は、アルバム『ARTISAN』に収録されているものの、シングルとしてリリースされた際にはエンディングにボーカルが加えられた別バージョンが収録されています。

その後、ベストアルバム『TREASURES』にはこのシングルバージョンが、オールタイムベスト『OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜』にはイントロのSEがカットされたアルバムバージョンがそれぞれ収録され、それぞれのヴァージョンを楽しむことができます。

山下達郎自身は、この曲の創作秘話を語っています。青山にあるレストランバーで、The Dramaticsの演奏を観に行った時の出来事がインスピレーションの源になったそうです。そこで目撃した、長い廊下の陰で静かに涙する女性の姿が、強い印象を残したとのこと。この経験から、倦怠期を迎えた男女が、何も言葉を交わさずただテーブルを挟んで向き合っている様子を描写した楽曲制作を思いついたといいます。そして、そのような雰囲気の店には絵画が飾られているだろうと考え、J・M・W・ターナーの絵画「雨、蒸気、スピード」をタイトルに取り入れることを決定しました。ターナーの絵画は、山下達郎が高校時代から愛好していたものだったそうです。

楽曲のメロディーは、別の楽曲「僕の中の少年」制作中に既に完成していたもので、『ARTISAN』制作時に歌詞が付け加えられました。当初は、U2やヴァン・モリソンといったアーティストを思わせるような、アイリッシュロック調のサウンド、通奏低音を使った楽曲を目指していましたが、最終的には、楽曲が持つ耽美的で繊細なイメージをより強調するために、打ち込みのリズムに変更されました。

カップリング曲である「ONLY WITH YOU」は、サウンドトラックアルバム『BIG WAVE』に収録されている楽曲のライブバージョンです。これは1986年に行われたコンサートツアー“PERFORMANCE '86”で演奏された音源を使用しています。その後、ギターインストゥルメンタルバージョンが制作され、NHK-FM『サウンドストリート』のテーマ曲として採用されました。さらにその後、JFN系列の『サンデー・ソングブック』のテーマ曲としても長く使用され、親しまれました。このライブバージョンは長らくアルバム未収録でしたが、後に『Ray Of Hope』初回限定盤のボーナスCD『Joy 1.5』にリマスタリング音源として収録されました。

シングルのジャケットは、ロサンゼルス在住の芸術家アンドレ・ミリポルスキーが手がけたイラストが使用されています。これは、アルバム『ARTISAN』で使用されたイラストと色違いのものです。

このように、「ターナーの汽罐車 -Turner's Steamroller-」は、山下達郎の音楽性と、彼自身の体験や感性が凝縮された、非常に奥深い楽曲となっています。様々なバージョンが存在し、ラジオ番組のテーマ曲としても使用された「ONLY WITH YOU」と合わせて、彼の音楽史において重要な位置を占める作品と言えるでしょう。

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