ターヒル朝

ターヒル朝：ホラーサーンを支配したイスラム王朝

ターヒル朝（821年 - 873年）は、9世紀にアッバース朝の総督としてホラーサーン以東を統括したイスラム王朝です。現在のイラン、アフガニスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンにまたがる広大な領域を支配し、首都はニーシャープールに置かれました。

成立の背景

始祖であるターヒル・イブン・フサインは、ホラーサーンを拠点とするアラブ戦士集団の有力者でした。彼の祖父は、ウマイヤ朝を打倒したアッバース朝革命に参加しています。ターヒル自身は隻眼の武人で、二刀流の達人であり、「2本の右手を持った人」と渾名されたと言われています。

809年、アッバース朝第5代カリフ・ハールーン・アッラシードがマー・ワラー・アンナフルでの反乱鎮圧のためホラーサーンに滞在中に病没しました。ターヒルは、カリフの世継ぎの一人であるマアムーンに付き従い、マアムーンがカリフ位を奪取する際に大きく貢献しました。バグダードを包囲して対立するアミーンを降伏させるなどの功績が認められ、マアムーンの即位後、ターヒルはバグダードやジャズィーラの総督職を与えられ、その後ホラーサーン総督に任命されました。彼はテュルク系やイラン系のマワーリー軍団、アラブ駐留軍などを統括し、この地域での行政・軍事力を掌握しました。

独立への動き

しかし、ターヒルは軍事力の増大を警戒したカリフ・マアムーンと対立するようになります。821年、ターヒルは金曜礼拝のフトバからカリフ・マアムーンの名前を省き、事実上独立を果たしました。

アッバース朝との関係

ターヒルの死後も、ターヒル家のホラーサーン以東での勢力はアッバース朝からも認められ、ターヒルの息子タルハ以降も総督職の任命を受けました。ターヒル朝は毎年バグダードへ貢ぎ物や軍事力としてテュルク系奴隷を供給し、一族からはバグダードの警察長官を輩出するなど、アッバース朝との関係は概ね良好でした。

東方支配の要

ホラーサーンはウマイヤ朝時代からイスラム帝国の東方支配の要であり、ターヒル朝が担ったホラーサーン総督職は、マー・ワラー・アンナフルやスィジスターンからアフガニスタン中南部、インド方面までの諸勢力と対峙するイスラム支配地域の境域・前線地域でした。また、ターヒル朝はスンナ派に属していたこともあり、ホラーサーンのハワーリジュ派やカスピ海南岸のタバリスターンのシーア派などの反アッバース朝勢力と対立しました。

衰退と滅亡

やがてスィジスターンからサッファール朝が台頭し、873年に首都ニーシャープールが陥落するまでホラーサーン支配を担い続けました。891年にはバグダードの総督職が廃止され、ターヒル朝は終焉を迎えました。

歴代君主

ターヒル・イブン・フサイン（ターヒル1世）（821年 - 822年）
タルハ・イブン・ターヒル（822年 - 828年）
アブドゥッラー・イブン・ターヒル（828年 - 845年）
ターヒル・イブン・アブドゥッラー（ターヒル2世）（845年 - 862年）
* ムハンマド・イブン・ターヒル（862年 - 873年）

もう一度検索