ターラント湾

ターラント湾

イタリア半島南部に深く入り込むターラント湾（Golfo di Taranto）は、広大な地中海の一部であるイオニア海に属する、規模の大きな湾です。その名称は、湾の最奥部に位置する重要な港湾都市であるターラント市に由来しています。沿岸には、ターラントをはじめ、プーリア州のガッリーポリなど、複数の主要な都市が点在しています。

地理的特徴

この湾は、おおよそ正方形に近い形状をしており、その規模は約140km四方にも及びます。地理的には三方を陸地に囲まれており、東側はプーリア州を形成するサレント半島、西側はカラブリア州の一部であるカラブリア半島によって画されています。湾口は南南東の方向に開けており、その広がりは東端のプーリア州のサンタ・マリーア・ディ・レウカ岬から、西端のカラブリア州チロ・マリーナの北にあるプンタ・アリーチェ、あるいはクロトーネ南東のコロンナ岬までとされています。

湾の海岸線は、東から順番にプーリア州、バジリカータ州、カラブリア州の三つの州に接しています。湾には内陸から複数の河川が流れ込んでいますが、その中でもバジリカータ州を流れるバゼント川、シンニ川、そしてカラブリア州とバジリカータ州の境界をなすアグリ川は、流域面積が広く湾に注ぐ水量も多いため、特に重要な河川とされています。また、湾内のターラント市沖合にはケラーディ諸島と呼ばれる小さな島々が浮かんでおり、湾の景観の一部をなしています。

歴史的重要性

ターラント湾沿岸地域は、古くからその地理的な利便性から、地中海世界の重要な拠点として機能してきました。特に古代においては、「マグナ・グラエキア」（大ギリシア）と呼ばれ、ギリシア本国からの移住者によって数多くの植民都市が建設され、大いに繁栄しました。湾の奥まった場所にあるタレントゥム（現在のターラント）は最も重要な都市の一つであり、そのほかにも沿岸には、クロトナス（現クロトーネ）、ヘラルレア・ルカニア、トゥリオイ、シュバリスといった、豊かな文化と経済力を持つ都市が次々と築かれました。これらの都市は、地中海貿易や文化交流の中心地として、古代ギリシア文明の発展に大きく貢献しました。

現代の領海主張

ターラント湾に関しては、現代において国際法上の議論も存在します。イタリア政府は1977年、湾の入り口にあたる部分に直線基線を設定し、その基線によって囲まれた湾内の海域を歴史的な内水域と見なし、イタリアの領海であると一方的に宣言しました。この主張は、古くからイタリア（あるいはその前身国家）がこの湾を実効支配してきたという歴史的な権利に基づくものです。しかし、このイタリアの領海主張に対しては、特に海上交通の自由を重視するアメリカ合衆国やイギリスなどの一部の国々が異議を唱え、公式にはイタリアの主張を認めていない状況が現在も続いています。このため、ターラント湾の一部は、イタリアが領海と主張している一方で、国際的には公海として扱われるという、複雑な状況にあります。

ターラント湾は、豊かな自然環境に加え、古代から現代に至るまで、地理的、歴史的、そして政治的に重要な意味を持つ海域と言えるでしょう。

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