ダンテ交響曲

ダンテ交響曲：リストによる『神曲』の音楽化

フランツ・リストの『ダンテ交響曲』は、正式には『ダンテの『神曲』による交響曲』と題され、彼の2つの標題交響曲の一つです。この作品は、ダンテ・アリギエーリの叙事詩『神曲』にインスパイアされており、リスト自身の文学への深い関心と音楽的創造性が結実したものです。

作曲の背景

リストは若い頃からダンテの作品に強い関心を抱いており、その影響はピアノ曲『ダンテを読んで』にも見られます。『ダンテ交響曲』の構想も早くから存在しており、1847年頃には主要な主題のスケッチが開始されていました。本格的な作曲は1855年になってからですが、この作品には彼のダンテへの情熱が込められています。

当初、リストは『神曲』の構成に沿って、「地獄」「煉獄」「天国」の3楽章構成を考えていました。しかし、作曲中にワーグナーにこの構想を伝えたところ、「天国の喜びを音楽で表現するのは難しいだろう」という意見を受け、最終的に第2楽章の終わりに女声合唱による「マニフィカート」を導入し、天国への憧憬を示す形で作品を終えることになりました。

1856年7月に完成したこの交響曲は、翌年ドレスデンでリスト自身の指揮により初演されました。しかし、初演時は練習不足のため、必ずしも成功とは言えなかったようです。

楽器編成

この交響曲は、大規模なオーケストラ編成を必要とします。具体的には、フルート3（ピッコロ持ち替え）、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ2人、大太鼓、シンバル、ハープ2、オルガン（またはハルモニウム）、弦五部、そして女声合唱（または児童合唱）が用いられています。

演奏時間

演奏時間は、第1稿で約47分（第1楽章：約20分、第2楽章：約27分）、第2稿では約50分（第1楽章：約20分、第2楽章：約30分）となっています。

楽曲構成

この作品は、以下の2楽章構成となっています。

第1楽章「地獄」（Inferno）

この楽章は、序奏付きの三部形式で構成され、主にニ短調で書かれています。しかし、G音が半音上がることが多く、減七の和音も多用されるため、調性は不安定です。曲は、ティンパニと大太鼓のトレモロに乗せて、弦楽器とトロンボーンによって荒々しく開始されます。中間部では、リミニのフランチェスカの悲劇が描かれ、地獄の九圏が音楽的に表現されます。最後は、D音のみが重々しく響き、楽章を閉じます。

第2楽章「煉獄」（Purgatorio）

ニ長調からロ長調へと展開するこの楽章は、アンダンテ・コン・モート・トランクイロ・アッサイの主題が反復された後、クラリネットとファゴットによってコラール風の主題が提示されます。その後、ヴィオラとチェロが加わります。中間部では、ロ短調のラメントーソが始まり、七つの頂から山頂に至る過程が描かれます。クライマックスではフーガが用いられ、山頂に到達すると、冒頭の主題が回帰し、ロ長調に転調して、マニフィカートの合唱へと続きます。合唱は、ラテン語でルカ伝第1章46節以下の歌詞を歌いますが、実際には冒頭の二行と「ホサナ」「ハレルヤ」のみが歌われます。リストは、合唱が客席から見えないように配置することを指示しました。合唱部分は、テンポと拍子が変動し、クライマックスでは全音音階が登場します。最後は、静かに楽章を終えます。なお、リストは後に、ワーグナー風の雄大なコーダを追加した別稿も作成しています。

作品の評価と影響

『ダンテ交響曲』は、リストの交響的作品の中でも特に重要な位置を占める作品です。ダンテの文学作品を音楽で表現しようとした彼の意欲的な試みは、後の音楽家たちにも大きな影響を与えました。特に、大規模なオーケストラの活用と、文学的な内容を音楽で表現する手法は、標題音楽の発展に大きく貢献しました。

参考資料

最新名曲解説全集2 交響曲II（音楽之友社）
ブダペスト音楽出版社のスコア、EMB

外部リンク

* ダンテ交響曲の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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