ダーニ

キエフ・ルーシにおけるダーニ：貢税制度とその変遷

キエフ・ルーシ時代、東スラヴ系、フィン・ウゴル系、バルト系の諸部族を統合したキエフ大公国は、その支配下にある部族から「ダーニ」と呼ばれる税を徴収していました。日本語では「貢税」と訳されるこのダーニは、現金や穀物などの生産物を対象としており、大公国の財政を支える重要な収入源でした。

ダーニの徴収と初期のキエフ大公国

キエフ大公国の初期において、ダーニの徴収は「ポリュージエ」と呼ばれる方法で行われていました。これは、大公が親衛隊であるドルジーナを率いて、征服した地域を巡回し、直接税を徴収するというものでした。冬季に行われることも多く、食料の補給という側面もありました。しかし、この方法は、大公の恣意的で強引な徴税を招く危険性を孕んでいました。

945年、キエフ大公イーゴリ1世は、ドレヴリャーネ族へのポリュージエで規定量以上のダーニを要求したため殺害されます。この事件は、ダーニ徴収における問題点を浮き彫りにし、制度改革の必要性を示しました。

オリガによる制度改革と支配の強化

イーゴリ1世の死後、彼の妻であるオリガは、ダーニ徴収制度の大改革を行いました。彼女は、「ウロク」（上納金）と「ウスタフ」（法規）を定め、徴税の基準を明確化しました。さらに、「スタノヴィシチエ」（駐屯所）や「ポゴスト」（貢物納入所）を設置することで、徴税の効率化と監視体制の強化を図りました。

これらの改革は、従来のポリュージエによる恣意的徴税を抑制し、在地の首長の権限を弱める役割を果たしました。結果として、キエフ大公国はより強固な支配体制を確立し、財政基盤の安定化に繋がったのです。

ダーニとキエフ大公国の政治構造

ダーニの課税単位は、村や都市、場合によっては部族全体に及ぶこともありました。ただし、『年代記』には家族単位や犂（すき）単位での課税の記述も見られます。これは、課税の対象が必ずしも明確に定められておらず、状況に応じて柔軟に変化していたことを示唆しています。

興味深いのは、キエフ大公国が各部族の内部統治には関与せず、主に部族の指導者階級との関係を維持していた点です。これは、キエフ・ルーシ期の諸部族が、政治的な一体性を有する集団であったことを裏付ける証拠とも捉えることができます。ダーニの徴収は、大公国による政治的支配と経済的支配を同時に行うシステムの一部として機能していたと言えるでしょう。

ダーニとキエフ大公国の財政

キエフ大公国の財政は、ダーニに加えて、交易に対する関税や裁判による罰金（ヴィーラ）にも依存していました。しかし、ダーニは征服地からの直接的な収入として、大公国の財政において重要な役割を果たしていたことは間違いありません。ダーニの安定的な徴収は、大公国の軍事力や政治力の維持に不可欠な要素であったのです。

結論

ダーニは、キエフ・ルーシの歴史と政治構造を理解する上で、非常に重要な概念です。その徴収方法や制度の変遷は、キエフ大公国の支配のあり方、そして東ヨーロッパにおける政治経済構造の変化を反映しています。ダーニの研究は、キエフ・ルーシ期の社会構造や国家形成過程を解明する上で、欠かせない要素と言えるでしょう。

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